「アフリカの夜」⑪トリックスター緑

ドラマ「アフリカの夜」。八重子、礼太郎、みづほ、有香、良吉というメゾン・アフリカの住民で、一際個性的なのが、ともさかりえさんが演じている木村緑。礼太郎の妹だ。

本筋の出来事には、ほとんど関わっていないのに、なくてはならない人物だ。殺人事件の指名手配の話でも気楽に楽しみながら見られるのは、緑がいるからだ。妙に深い発言をしたかと思うと、キャッキャとして、いるだけで場が和む。

第3話。アフリカ恒例のパーティー翌日。二日酔いで何も覚えていない礼太郎に、八重子を襲ったとウソをつく場面。

緑「二階の女を探しに行ったらね、レ~タまたランドリールームに居たの」
礼太郎「また?」
緑「でも、やってたのオシッコじゃないの。二階の女に襲いかかってたの!キャー」
礼太郎「……ハッハッハッ(どうせウソだろ)」
緑「(演劇チックに)小百合、愛してるよぉとかいって(と、礼太郎をソファーに押し倒す)キャー、ヤダ~ヤダヤダ」
礼太郎「嘘つけぇ、お前」
緑「二階の女、八重子じゃなかったけ?そしたらね、二階の女がレ~タのことバシィと突き飛ばしたのよ。でも、さすがレ~タ、全然ひるまないの」
礼太郎「(ホントか)……」

○昨夜のコインランドリー~緑の妄想
礼太郎をビンタする八重子。
緑と有香は驚いて見る。
礼太郎が八重子を襲う。
緑の声「いきり立ったレ~タは力尽くで、二階の女をベンチに押し倒して」
緑「キャー」
緑の声「セーターめくってオッパイもみもみしちゃうわ、スカートに手入れてパンツ脱がしちゃわ、もう野獣なの。ほとんどジャックニコルソンね。郵便配達は二度ベルを鳴らすね」

大石静「アフリカの夜」第3話より

何を話してもウソか本当か分からない緑。緑が話す妄想が、実際、妄想シーンとして映像となっているのが面白い。それくらい、本当っぽいから、礼太郎も、だんだん本当じゃないかって思ってくる。

ジャックニコルソンのあたり。
緑は、礼太郎の部屋で、古い映画のDVDをいつも観ているのだ。これを言う時の、ともさかりえさんがとてもチャーミング。

緑は、とにかくかわいい。年上の八重子や有香に、失礼なことを平気で言うが、悪気がない。年上の女性に悪気なく失礼なことをいうと言えば、「結婚できない男」の国仲涼子さん扮する、みちるちゃんと同じ。

緑は、こっそりアフリカの住人を観察して失礼な絵日記を書いている。

緑「301の相沢有香。礼儀知らず。マイナス10。恩知らず、マイナス10、マイナス5。201の杉立八重子。人を疑わないお人よし。プラス3。でも、ちょっと間抜け、マイナス5」

大石静「アフリカの夜」第2話より

「丸ちゃんのおばさん、いっつもにこにこしてるけど、ひとりでいる時は超こわいの。ミステリアス度マキシマム」

大石静「アフリカン夜」第5話より

観察眼が鋭い。
ミステリアス度マキシマムの言い方が、ともさかりえさんじゃないと出せないバカさとかわいさの絶妙なバランス。

緑の実家は豪邸に住むお金持ち。礼太郎に、親のスネかじってるくせに、ひとりで生きている有香や八重子をバカにするな、と言われ、人生初めてのバイトをする。最初のバイト、ミニスカパブも一日で辞め、二つ目のファミレスの初日。

店長が、しゃがんでいる緑の所へ来て。
店長「どしたの?」
緑「休憩してるんです」
店長「なに!?」
緑「こんなに安い時給で、わかりきったことを繰り返して、こんなに長い間立ちっぱなしで、ほっぺが痛くなるほどニコニコして、拷問です。アタシもうだめ」

大石静「アフリカの夜」第5話より

アタシもうだめ、だけなら、店長も許しちゃうのだろうけど、さすが緑!歯に衣着せぬ言葉で文句を言っているのに、ずっと笑顔。自閉症傾向の子どもが話すように、淀みなく言葉が出て来る。それが、緑の魅力。

緑は、だれよりもよく人を観察し、鋭い。
有香が仕事で沖縄にいる間、礼太郎が八重子の部屋に上がるのを見る。八重子に礼太郎との関係を問うが、なんでもない、と言われる。その後のひとこと。

八重子「あの、アタシ、静かに穏やかに暮らしたいんです……だから、このアパートの人達とも、波風立てたくありません。そういう意味であなたのお兄さんとも」
緑「(遮り)心の中でセックスしてたら同じよ?」
八重子「……」
緑「やっぱり、レ~タのこと好きなんだ?」

大石静「アフリカの夜」第5話より

心の中でセックスしてたら同じ!この言葉、昔から使い古された言葉かと思うくらい、文に違和感がない。それくらい、言い得ている。ググってみたけど、この言葉、ありきたりな言葉じゃないみたいで、出て来ない。

心の中で悪口言ってたら同じよ!
心の中で彼は生きている!
こういう表現はよく聞く。よく聞く表現の一部を替えて、インパクトのある言葉を入れてみる。例えば、
心の中で殺したら同じよ!
これは……同じじゃない!つまり、殺人は気持ちよりも行為が重要なのに対して、セックスは行為よりも気持ちが重要ってことか!

そう考えると、緑は、礼太郎のことを好きじゃないと四の五のいう八重子に、ばしっと本質をついた言葉をかましたってことか。

結論
四の五の言う相手には、本質をかまして、場の空気を変える。


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