「アフリカの夜」㉔隠れた名セリフ

ドラマ「アフリカの夜」。脚本は大石静さん。

以前、ドラマ「あのときキスしておけば」の取材で、「いいラブストーリーのポイントは何でしょうか?」と聞かれてこう答えていた。

私の技としましては、男にどう夢を託すかですね。特にラブストーリーの場合、多いのは女性の視聴者。だから、女性から見て、夢のある男が出て来た方がいいと思っています。(中略)とにかく徹底的に女性を守り抜く。絶対に現実にはいない男です。

https://post.tv-asahi.co.jp/post-151527/

「アフリカの夜」の礼太郎も、まさに徹底的に女性を守り抜く男。

第8話 『おかずの丸ちゃん』が銀行の手に渡ると聞いた礼太郎が、みづほを部屋に呼ぶ。

みづほが通帳を開ける、「8670850円」の残高が印字されている。
みづほ、礼太郎に。
みづほ「何コレ!?」
礼太郎「使ってくれよ。折角戻ってきたんだ。あの店なくなったら、元も子もないだろ?」
みづほ「礼ちゃん……!?」
礼太郎「大企業をだまして金儲けしている悪党にも、一分の魂ってことでサ……」
みづほ「……ありがとう……(通帳を礼太郎に押しつけ)、でもいいの……」
礼太郎「(通帳を押し返し)銀行は、本気なんだよ。あの商店街なんか、なくなったっていいって思ってんだからサ……」

大石静「アフリカの夜」第8話より

みづほは逃亡前、礼太郎に『おかずの丸ちゃん』を残せる方法がないか聞きに行っている。その時の礼太郎は、「銀行はまず負けないよ」と言っていたのだが。

礼太郎「俺さ、東京が、どこもかしこも殺伐とした町になるのは、ヤなんだよな……ささやかな町とささやかな景観……夜でも人の気配のする町……そんな夜の路地裏にさ、おしっこしたいんだよ、俺……
みづほ「……ありがとう……」
礼太郎「……」
みづほ「アタシとお父ちゃんは、どこだって生きて行けるから……そのお金、礼ちゃんのオシッコのために使って……」
礼太郎「……」
みづほ「アンタの気持ちは、一生忘れないわ……」

大石静「アフリカの夜」第8話より

「そんな夜の路地裏にさ、おしっこしたいんだよ、俺……
名セリフ。

「おしっこ」の話、このドラマでは頻繁に出て来る。礼太郎は酔っ払うと、どこかしこにおしっこしちゃうのだ。カッコイイ男でありながら、子どもっぽいギャップがたまらん!

第8話にはもう一つ名セリフがある。

緑と有香が、高級蕎麦屋の個室で食べている。

有香「(部屋を訝しげに見て)これがアンタのいう蕎麦?なんかごてごてしてるわね?」
緑「だって、ここしか知らないんだもん」
有香「バッカじゃない、アンタ?昔っから蕎麦ってモンは、日本酒をグッと飲んで、盛りを一枚か二枚ささっとやんのが、日本の文化ってもんなんだよ」
緑「あなたに日本の文化について聞かされると思わなかったわ」
有香「(蕎麦の飾りの花を見せて)これが、山の頂上なわけ?」
緑「……」
有香「(庭園を見て)これが山の頂上なら、アタシは興味ないな

大石静「アフリカの夜」第8話より

盛り蕎麦の上にピンクや黄色の食用菊が飾ってある。本来の蕎麦のおいしさと関係無いどころか、蕎麦の良さを消してしまうような無駄な物。その飾りは緑の生まれた世界を象徴している。それを、ピシッと
これが山の頂上なら、アタシは興味ないな
という言う有香。かっこいい。

この話は、フランス料理のその後談である。

フランス料理の後、緑が有香に言う。

○メゾン・アフリカ・1F廊下(夜)
有香がランドリーかごを持って下りてくる。
緑が、千鳥足で帰ってくる。
緑「随分早かったわね?お食事、楽しかった?」
有香「……」
緑「多分、レ~タがあなたに惹かれたのは、ああいうところが似合わない人だったからよ」
有香「……」
緑「あ、これ、良い意味でよ」
有香「生まれた時から、ああいう世界に慣れ親しんでいるあなたとは違って、アタシは、自力で一歩一歩昇って行くしかないの」
緑「一歩一歩昇ったって、ヘリコプターで昇ったって、山の上からの眺めは同じだけどね
有香「……」

大石静「アフリカの夜」第7話より

この時の悔しさが、「これが山の頂上なら、アタシは興味ないな」という一言で解消される。

礼太郎の「そんな夜の路地裏にさ、おしっこしたいんだよ、俺……」も、有香の「これが山の頂上なら、アタシは興味ないな」も、人物像から滲み出るセリフ。そして、どちらも隠喩。「君の瞳に乾杯」なんてのも隠喩だな。名セリフの一条件だな。


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