「アフリカの夜」⑮新生、杉立八重子

ドラマ「アフリカの夜」。好きな場面を書いても書いても、まだ浮かぶ。噛めば噛むほど味が出るスルメドラマ。

このドラマの基軸は、「道は開かれている」。八重子が、火野史郎と対峙し、過去の自分と決別する場面が第7話の冒頭だ。昨日の火野史郎の狂気マックスのシーンの続きになる。

八重子に復縁を迫るために、講義中の塾に乗り込んだ史郎。八重子は、子どもたちを教室から逃がすために、史郎に迎合するフリをする。

教室にいるのは、八重子、史郎、八重子のことが好きな中学生本間だけ。

本間「(八重子に近づく)……」
八重子「……出なさい!」
本間「……」
八重子「来ないで!こんな男のためにケガしてどうするの?」
と、言ってから、マズイと思う顔。
史郎「こんな男……?」
八重子「東大が何よ?A採用が何よ?」
史郎「好きだって言ったじゃないか、好きだって!」
と、八重子の首に斧を当て。
史郎「スペイン行こう!新婚旅行から帰ったら、佃の高層マンションで一緒に暮らそう、ね?八重子なしじゃ生きられない」

大石静「アフリカの夜」第7話より

緊迫した場面なのに、である。
なぜか、有香が教室に入ってくる。有香は、逃亡中のみづほから電話が掛って来たことを伝えるために、たまたま塾に来ていたのだ。

有香「止めて!!」
モリヤス「水ようかんのお姉さんだ!」
有香「……!」

大石静「アフリカの夜」第7話より

ここで、緊張が一瞬ほどける。水羊羹のCMの気楽な音楽と、シリアスとの対比。「アフリカの夜」は、緊張と弛緩がワンシーンの中に混在している。一つのシーンを、同じトーンにしない。

八重子「火野さん……私、もう前の私じゃないの」
史郎「僕は八重子の夫だよ」
有香「……」
史郎「教会でも誓ったじゃないか?」
八重子「人間、生きていれば、間違えもするし、失敗もするわ。そんなの誰だって一緒じゃない」
有香「……」
八重子「あなたの人生の失敗は、あなたが償うしかないの」
史郎「夫に向かって何を言うか!」
八重子の首の釜の先。
有香「何も言わない方がいいよ、杉立!」
史郎「黙れ!僕と八重子は一緒にバルセロナに行くんだ!ジャマする奴は殺す」
と、有香へ向かう。
八重子、史郎の腕を掴み。
八重子「止めて!」
史郎「……!」
有香「……」
八重子「出直して……罪を償って生き直してください、お願い」
史郎「……!」
本間・有香「……!」
史郎「(釜を八重子に振り上げる)」
八重子「どんな時にも、どんな人にも、道は開かれてるわ……」
史郎「……」

○あの日・あの時~史郎の回想
教会でウエディング姿の八重子が笑っている。

○元の大教室
史郎「……」
八重子「……」
史郎の手から、バラが落ちる。
八重子「……」
史郎が、斧をゆっくりと下ろす。

大石静「アフリカの夜」第7話より

命の危険を感じても、「道は開かれている」ことを訴える八重子。この強さをくれたのは、メゾン・アフリカの住人との出会いだった。1話から6話までの全てのことが、ここに繋がり、ここで実を結ぶ。八重子が、過去の自分と決別した瞬間なのだ。

最近、気付いた。人が生まれ変わる瞬間が描かれるドラマや本に、私は惹かれる。生まれ変わることを応援する物語に、私は惹かれる。「アフリカの夜」を観た大学二年生から、就職、出産、育児、退職、人生の岐路で心の支えになったドラマだ。

感謝しかない。


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