ドラマ「アフリカの夜」。長ゼリフが多いだけでなく、長いシーンも多い。第8話のみづほの生還パーティーもたくさんの要素が詰まった長いシーンだ。
指名手配中の亀田伸枝であることがバレたと思い、逃亡したみづほ。しかし、逃亡先で心身ともに疲れ、メゾンアフリカの仲間の優しさに絆されて戻って来る。翌日、礼太郎の部屋で開かれたのが「丸ちゃんのお母さん生還パーティー」。12分もあるシーンだ。
このパーティーで話を展開させるのは、緑。緑のお人柄については ↓
緑の役割は大きく二つ。
1.みづほの秘密を露呈する(図らず)
2.有香と礼太郎の別れを決定的にする
礼太郎が八重子ばかり褒めているから、「お兄ちゃん!私だってこんなことしてるもん!」とでも言いたげに日記を見せびらかす。
緑は、みづほを追い詰めようだとか、反応をみてやろうという気持ちはないが、みづほはドキドキする。
悪気がない緑が、秘密をバラそうとするから、見てるこっちまで心配になってくる。そして、無邪気な緑がいるから、みづほの秘密を知ってしまった八重子が際立つ。このパーティーでは八重子は寡黙なのだ。
「変っていうのは、私にとって褒め言葉」普段ネガティブに使われる言葉を私にとって褒め言葉なのっていうところがいい。
デブっていうのは、私にとって褒め言葉なの
バカっていうのは、私にとって褒め言葉なの
……ほら、どんな価値観でも受け止めるマジカルセンテンス。
私が好きなのは、この後のロースハムのやりとり。
ロースハムからこんなケンカが起きるとは!?緑VS有香・礼太郎。マカロニサラダのロースハムの価値観は、そのまま人生観と通じる。たかがロースハム。されどロースハム。「こん中にハムがゴロゴロ」とか「ロースハムっていってもびらびらよ」といった、ディティールの細かさが人間を描写する。俳句の視点。
有香と緑が言い争うことで、またみづほが窮地に陥る。
八重子が空気を変えるために、有香のCMをみんなで見ようと提案したのだが……
コントでありそう。
前半は、このようにみづほの秘密がバレそうなのが、緑と有香のバタバタで彩られている。
後半は、有香と礼太郎の別れが決定的になる。
始まりは、パーティーの揚げ物から。礼太郎が揚げ物ばかり食べている。緑が、八重子に礼太郎のこと太っても好きかと聞く。そこから話は急転直下。
いつ見ても涙が出て来る。途中から、緑が涙目になっている。これは、兄への叶わぬ思いの涙か。「サイテーよ……そんなの愛じゃない!」セリフはウソつきの見本。
それと対比し、有香はあっさりした様子。プロポーズのことを初めて知ったのに。それが、逆にグッとくる。一番辛い人が、そんなそぶりを見せないことで、逆に見ている方は辛くなる。
礼太郎が「いい加減にしろ、お前!」と言ったとき、緑が本気でビクッとなる。「怒った」と泣きそうになる緑。感情が入る佐藤浩市さんの怒号に、ともさかりえさんは本気で驚いたんだと思う。
このセリフだけ見ても、このドラマの面白さが分かる。
このシーン、およそ12分間。途中、回想シーンが入るものの、ほぼアフリカの住人の会話だけ。その中に、いろいろな要素が入った、密度の濃いシーンだった。そして、それをまとめ上げるのが、我らがトリックスター緑なのだ。