「アフリカの夜」⑬ボタン・接着剤・ちりめんじゃこ

ボタン、接着剤、ちりめんじゃこ……この三つを見てピンとくる人、そんな人がもしいたら、友達になりたい!

これらは、大石静「アフリカの夜」の小道具。

ちりめんじゃこの話は、②でも紹介した。八重子と礼太郎のつながりを象徴する。

ちなみに、六話でも、また登場する。

○バー・店内(夜)
カウンターで一人、ちりめんじゃこを魚に酒を飲む礼太郎。
女性バーテンと話す。
バーテン「それ、お好きですね?」
礼太郎「うん……ちりめんじゃこにはね、俺の時空を越えた思いがある」
バーテン「時空?」
礼太郎「そう。時間と空間……」
バーテン「時間と空間……」
礼太郎「今はただのちりめんじゃこでもさ、時を経た別の場所では、輝きを放つことがある。例えば、君と僕にもさ……何でもない、ごめんなさい」

大石静「アフリカの夜」第6話より

「時空を越えた思い」こういうキザな言い方が似合う礼太郎がかっこいい。でも、ここはちょっとギャグで終わるのね。

接着剤、これは緑の天真爛漫具合の象徴か!?
緑のかわいさについては、↓

緑は、接着剤をいろいろな所に付ける。

八重子がベランダに出て来ると、上の階のベランダから、有香が身を乗り出している。
有香「ドアが開かないの!※時までに仕事に行かないとならないのに、どうしよう」
八重子「開かないって、どうしたんですか?」
有香「わかんないわよ!わかんないから助けてって言ってんの!上来て、ドアぶち破って」
八重子「え~?」

大石静「アフリカの夜」第2話より

これ、緑の仕業。玄関を接着剤で付けるという、なんと破天荒な!小学生男子かっ!
このことが原因で
①有香の部屋の水漏れは修理の人が来てくれたのに、玄関から入られなくって直してもらえない。
②玄関から出られない有香は、梯子を使って下の階の八重子の部屋から出ざるを得ない。そこで、八重子のきっちりした朝食を目にする。
接着剤は、緑らしいイタズラをする小道具であり、その小道具を使うことによって、八重子と有香が関わり合わずにいられない状況になった。

小道具が、ストーリーを推進する!

緑は、その後も、礼太郎の秘書の靴を玄関に付けたりと、接着剤が気に入ったご様子。しかし、緑には、緑なりの哲学がある。

八重子「車の色は?色なら覚えてるでしょ?」
緑「まさか、探す気?」
八重子「ええ」
緑「やりすぎじゃない、いくら管理人の資格に目覚めたからと言って」
八重子「あの人には恩義があるの」
緑「恩義?ステキ、うふ。でも、管理人さん。人は旅立つものよ」
八重子「えっ……?」
緑「どんなに強力な接着剤でも、人の心は接着できないわ」
八重子「それでも無関心でいられないのも、人の心でしょ?」
緑「でも、管理人さんだって、一人で暮らしたいし、静かになりたいって言ってたじゃん。丸ちゃんのお母さんだって、そう思ってるかもしれないわよ?」
八重子「……」

大石静「アフリカの夜」第6話より

こういうことを言ってのけるのが、緑のかっこよさ。さすが、礼太郎の妹。

そして、ここからが本題!(前置きが長ッッ!)

ボタン、である。八重子と礼太郎を時空を越えて繋いでいるのがちりめんじゃこならば、みづほと良吉を繋いだのがボタン。

初登場は、第五話。銀行が丸ちゃんを処分すると言いに来た日。

銀行員「……また参ります。その時は、担保を御処分いただく手続きをさせていただきます」
良吉・みづほ「……」
銀行員、去って行く。
みづほ「お前なんか、何遍来たって、たたき出してやるから!」
良吉「もういいよ……」
みづほ「だってお父ちゃん……」
良吉「みづほ……(白衣の取れ掛ったボタンを見せて)このボタン、つけといてくれな、後で」
みづほ「……」

大石静「アフリカの夜」第5話より

これだけでも切ない。銀行員に殴りかかって、この場面だから。だけど、それだけでなく、みづほがメゾン・アフリカを出て、逃亡する間、何度も回想される。

二度目は、逃亡してすぐ、定食屋で。

みづほ、キュウリのぬか漬けと親子丼味噌汁を食べる。
みづほ「……ん……!?なんか忘れてるアタシ」

○メゾンアフリカ・みづほと良吉の部屋~回想~
玄関から居間へと記憶を辿る。

○元の食堂
給仕「どっから来たの?」
みづほ「新潟」

大石静「アフリカの夜」第6話より

この時、みづほは、思い出せない。しかし、見ている人は、分かる。

次、逃亡初日のビジネスホテルで

○ホテル・客室・中(夜)
ベッドで服のまま寝ているみづほ。
みづほ、目が覚める。
みづほ「なーんか、忘れてるんだよな、アタシ……」

○みづほの回想
おかずの丸ちゃんの店内や良吉。

○元の客室
みづほ「なーんだっけ、あれ?」

大石静「アフリカの夜」第6話より

そして四度目。スナック『黎』で数日働いた後。

ママ「安奈ちゃん、ざーっとでいいわよ、ざーっとで」
みづほ、箒で床を掃いている。
みづほ「はいはい」
ママ「(笑顔でみづほを見ている)……」
みづほ「よし、よいしょ……(イスの下に何かを見つける)」
みづほ、イスの下から拾ったのは、ボタン。
みづほ「……」

○あの日・あの時~みづほの回想
五話のリフレインより。
『おかずの丸ちゃん』で良吉がボタンの取れたエプロンを見せ。
良吉「みづほ、このボタン、付けといてくれな、後で」

○元の店内
みづほ「……!!!……(動揺し)ええっと……」
と、店を飛び出す。
ママ「安奈ちゃん?」

○道路
黒いマントを羽織ながら、みづほが逃げていく。

○ 『黎』・店内
ママ。カウンターを拭いている。
警官が入って来て、ママに。
警官「こんにちは」
ママ「あ、どうも……」
警官「最近ね、新しい人の出入りがあったかって思ってね」
ママ「先週一人雇ったわよ、今、ちょっと出かけてるけどね」
警官「名前は分かる?」
ママ「うん。安奈ちゃん……」
みづほが使っていた箒とちりとりが取り残されている。

大石静「アフリカの夜」第6話より

ただ思い出すだけじゃない。思い出して、居ても立っていられなくなって、『黎』を去ったのと入れ替わりで、警察がやってくる。ここ、何度見てもどきっとする。
もし、ボタンを思い出さなければ、思い出しても良吉と強く繫がっていなければ、この瞬間に逮捕されている。残された箒とちりとりも、みづほの残り香が感じられて、一興。

結論
小道具も、起承転結。

おまけ ボタンの謎=見えそうで見えない、じらされて惹きつけられる。最後はスッキリ!大石マジック


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