カルテットでこのセリフを聞いたとき、思い出したこと。
それは、泣きながらマックポテトを食べる有香のシーンだった。
有香にとって、鶴亀屋の羊羹のCMは、夢が現実になるための大きな一歩だった。そのCMのギャラで、有香は礼太郎にごちそうすることに。
いつ出て来るかも分からない礼太郎を、ビルの玄関で待ち伏せしていた有香。携帯電話で連絡しなかったのはなぜか?電話で話したら、別れ話になりそうで怖かったのか?お金が入った時、思い立ってすぐ行動したのか?
いつもは庶民の店で食事するふたりが、フランス料理。大事な仕事でもらったお金だったから、そんな使い方したかったのかな。しかし、これがミスチョイス。有香にとって、礼太郎との距離を感じてしまう結果となる。
私は有香と同じ感覚だから、ビールって言っちゃいそう。こういう店では「お上りさんが来た」(え!?お上りさんって今も使うのかな?)と思われるんだね。
ここでグッとくるのは礼太郎。礼太郎の実家は金持ちで、小さい頃からこの店に何度も来ている。もちろん、これまでアペリティフでビールを注文したことはないだろう。でも「……僕もビール」。この時の佐藤浩市さんが、少し困ったような、でも、有香に対するいたわりもあるなんとも言えない表情でとてもいい。
なんと、よりにもよって、そこに緑がご学友とやってくる。
有香がしゃがんでフォークを探している時に、立っている緑が上から「拾わないのがマナーよ」と言い放つ。
さっきのソムリエの微妙な表情では何も気付かなかった有香だが、さすがに、緑のこのセリフには傷つく。礼太郎と自分の身分の違いを突きつけられる。
礼太郎は上流階級で育ったにもかかわらず、「落とした物は拾う」こういう当たり前の感覚を持ち続けらている。逆に言ったら、そうだから、実家から出て、ひとりで生きてきたのだろう。この一言で有香は救われる。
有香の行動と対比させるように緑のお嬢っぷりが描かれる。ん?この時、緑は浪人生だから18歳(未成年!?)か。
この場面、緑が見ていることで、視聴者は余計にハラハラする。スパゲティーって言ったら、また緑からバカにされるよって心配してしまう。野ウサギに驚く有香も、コースに野ウサギが入ってないか聞く有香も、かわいいヤツなのだが。
そんな有香を優しくフォロする礼太郎。しかし、フランス料理店の注文の仕方に慣れている礼太郎を見て、有香は距離を感じてしまう。有香は礼太郎と別れるかもしれないと不安なタイミングだったから、このシーンは余計に切ない。
有香が礼太郎に距離を感じた後は、また距離が近くなる場面。
ちゃんと覚えてくれていたんだ、思い出の店!かつて有香が八重子に話したように、有香にとって大切な思い出。
距離を感じさせた後、距離を縮める。緊張と弛緩。
そして、泣きながらポテトの場面。
フランス料理の後のマックポテト。
恋人の誘いを断ってのマックポテト。
ただ泣くんじゃない、マックポテトを食べながら泣くんだ。
フランス料理店の一連のシーン、切なすぎて見られない。グッと胸が締め付けられる。「アフリカの夜」の後半は、こういうシーンが多い。