![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/14360812/rectangle_large_type_2_f5ca421fb5618bd695a3e35d7fce5530.jpg?width=1200)
少し昔の話をするね
若い頃の数年間、ゲームセンターのお姉さんという仕事をしていたことがある。
そういう仕事をしていた割に、それまでご家庭用ゲームは持っておらず、ゲーム自体には17の頃まで馴染みがなかった。
高校生だった頃、そこそこお堅い女子高に通っていた私に、ばりばり進学校のCちゃんが連絡をくれた。手紙だったか、家電話だったかは覚えていない、そう、まだ携帯電話も普及していなかった頃、とにかく手段はアナログだった。
百貨店の屋上に、面白いものがあるの。
真面目な風貌の女子ふたり、当時はまだビデオゲームが全盛期だった頃、フロアにはほぼ男の子の客しかいないので若干怯みながら、百貨店の最上階に所狭しと筐体が並ぶスペースに行く。なんかちょっとこわい。でも面白いものってなんだろう?
連れていかれた筐体の画面には、緑色の可愛らしい怪獣が泡を吐いている姿が見えた。ちょっとここ、こわい感じだけど、これ可愛いでしょう?面白いんだよ、とCちゃんがまずやり方を見せてくれた。レバーとボタンを使ってキャラクターを操作するということが私にはとても新鮮で、空いていたのを良いことに次々と追加の100円玉を投入したのを覚えている。
多分私と同じようにゲームには縁のなかったはずの彼女がどういう経緯であの場に行くようになったのかは知らない。けれど数回行くうちに彼女は来なくなり、私にはゲーム好きの彼氏ができた。少しずつ顔を合わせて、カウンターに置いてあった常連ノートに落書きしたりして、なんとなく一緒に帰ったりしているうちに仲良くなって緩く付き合いながらも、遠距離になって消滅したんだっけ。
ゲームは他にも色々覚えて、消滅した恋の次も同じ仲間うちの彼氏だったので、百貨店のお店の系列店がもうひとつ市内にあったこともあり一緒によく両方に通っていた。
そのうち私は地元の短大生になり、既に顔の通っていた系列店の店長から声をかけられた。
バイトしない?
居心地の良い場所だった。少し迷いはしたけれど、答えはイエスだった。楽しませてくれる場所の運営側に回るの、面白そう。
実際面白くて、短大を卒業する時に店長にこのまま働きたいと申し出てしまった。仲良しの同級生は銀行員になったり公務員になったりしている中で、かなり異端だったと今は思うけれど、その後の仕事も全てが楽しくて喜びで、今でもあの時の自分の選択は間違っていなかったと思っている。
アルバイトから準社員として待遇が変わった。だからと言って仕事の内容が大きく変わるわけではなく、既に身についていた基本的な事をやりながら景品担当&当時導入され始めたパソコン担当になった。今思えばどちらも得意ではない分野。けれど勢いでなんとかなっていた。若さって、しゅごい。
高校生の常連くん常連ちゃんたちと仲良くなり、恋の相談やら人生相談やら受けながら休み時間や休日には共にゲームで遊んだ。お客さんであり、仲間だった。ゲーセンに来る子たちは、みんな素直でいい子ばかりだった。
ゲームの基板は入れ替わっていく。新しいものが入ってくれば、思い入れのあるものも、古くなったり売上が取れないものから出て行ってしまう。
最初に遊んだあのゲームも、去ってしまった。
新しいゲームの新鮮さや驚きも楽しいけれど、基板にも愛着が湧くもので少し寂しかったりした。
朝、開店直前に全ての機械の電源を入れながら、一台一台におはようと声をかけていた。新しい基板が来ればよろしくねって伝えてたし、去っていく基板にはありがとうねと梱包の上から撫でてみたりしていた。ハンダゴテにはいつも頼むよーと声をかけてたし、責任者が持てる鍵の束が誇らしかったし、100円玉でいっぱいになる集金袋も愛おしかった。
(…愛おしかったのは100円玉かもしれないけれど)
あのお店はもう建物ごと無くて、今は私の心の中でしか触れられないのだけれど、ビデオゲームコーナーの柱の感触とか、お気に入りのゲームの位置とか、ふと思い出したりして、少し語りたくなった。
あまり過去を見たくない私が、今も帰りたいなと、思ってしまう唯一の場所。
無くなる時、心の一部をちぎり取られるような気持ちになった場所。
すごく、大好きで、すごく、いい時代だったなぁ。