子ヤギがやってきた!
2020年4月の頭(ぐらい)、弟の友人から子やぎが産まれたとの連絡があり、1枚の写真が送られてきた。
なんと可愛い赤ちゃんなんだ。
産まれたばかりの子ヤギの写真に心を鷲掴みにされた。
本当にうちに来てくれるのか、うちに来てくれるとしても、まだ産まれたばかりだから数ヶ月後には大きくなった姿でくるのだろう。
それからうちに来るのは先のことだろうと思っていたせいか、数週間経った時にはヤギのことはすっかり忘れていた。
ヤギの話題を忘れていたある日、唐突に弟が言った。
「ヤギがくるよ!」
なんと、週末に子ヤギがくると連絡があったそうだ。各々が思い出したかのように赤ちゃんヤギの動画をネットで調べ、動画を見て口々に「可愛い可愛い」と期待を募らせた。
あまりにも色めき立っていたので、ヤギが来た時に思ったより大きくなっていたら、みんなが可愛がらないのではないかと思い、
「うちに来る時にはきっと大きくなっててそんなに可愛くないかもよ。」といい、みんなの期待をなるべく抑えようとした。
この一言で、みんな我にかえったようでヤギを飼う目的を思い出した。庭の草刈りだ。
「可愛くなくなってても、草をたくさん食べてくれればいいよね」
とみんな自分に言い聞かせるように言った。
うちにヤギがくるまであと数日。
ヤギの名前をつける大役を仰せつかった2人は、初めは軽く考えていたが、友達が多かったせいか、仕事上人と関わることが多かったせいか、人の名前と被り、ヤギが到着するまで名前が全く決まらなかった。
そうこうしているうちに、すぐに週末を迎えてしまった。
ヤギがくるまでにヤギの飼育に必要なものをネットで調べて揃えることにした。とはいえ、すでに約束の週末を迎えてしまった為、ゆっくりと揃える暇はなかった。
大人になっても使える小屋、水入れ、岩塩、リード、リードを付ける杭。ヤギを飼うのに必要な物は意外と少なかった。
ヤギ小屋は欲しい大きさのものがなかったので、手作りすると決めており、材料の調達から完成まで約半日ほど時間を要した。
慣れない工具を使った為、電動ドリルが反対回りになっているのに気づかず釘をねじ込もうと奮闘していたが、頑張って回転しすぎて熱くなった釘を見てようやく反対回しだと気づいた。
そんなこんなで奮闘し、ヤギ小屋の出来上がりと同時ぐらいに、我が家に1台の車が到着した。
想像では、トラックの荷台にくくりつけられてメェメェ鳴きながら登場するのだと思っていたが、実際は乗用車の後部座席に犬用ケージに丸くなって大人しく入っている白い塊が..
車に酔ったのか、初めての場所でびっくりしているのか、あまり動かない。
白くて、小さくて、赤ちゃん特有のふわふわの毛に覆われた可愛い子やぎ。
みんなが小さいヤギを想像して、可愛がらなくなっては困るという私の予想を良い意味で裏切ってくれた、天使のように可愛い子やぎだった。
名前の第一候補が、大人になってもずっと使えるようにルパンの峰不二子から取った『ふじ子』だったが、あまりの可愛さで『ふじ子』という、色気たっぷりな名前が似合わなかった為、満場一致で考え直すこととなった。
ギリギリのタイミングで完成した小屋を設置し、設置した小屋の近くに杭を刺し、子やぎを繋いだ。
しばらく見ていたが、なんとも大人しく、か弱い生き物なのだ。
移動時が約5時間、なにも食べていないという話を聞き、草を食べさせようとみんなで草のところに連れて行くが食べる様子がなかった。
古い記憶を蘇らせ、昔小学校で飼っていたうさぎが食べていた草を口元に持っていくが、少し食べただけですぐに食べなくなった。
連れてきてくれた譲り主が、飼料を分けてくれたがそれすら食べようとしなかった。
みんなで心配そうな顔をしていると、譲り主が出発する直前に、お腹いっぱいミルクを飲ませたという。
なんと数時間前まで、ミルクを飲んでいたというではないか。
草を食べるわけがない。
乳飲み子を引き取って、これからどうなるのか心配で仕方がなかった。
譲り主は、明日からは草食べますよ。なんて、他人行儀な事をすました顔で言っていた。
一同、固まり不安がよぎる。
が、
遠くから、こんなに可愛い子を連れてきてくれて本当にありがとう。本当に感謝しかない。
明日から不安も多いが、楽しみで心が躍りだしそうな気持ちだった事も事実だ。
そして、ついに名前をつけた。
"こゆき"
春に生まれて、これから夏に向かおうというときに、か弱そうな真っ白なふわふわの可愛い子やぎを見て付けた名前だ。
大きくなっても"こゆき"。
家族の誰かが言った、「子やぎの名前を聞いたら、角ハイボール飲みたくなってきた」と。
これからの成長が楽しみだ。