デジカメUI入門2

デジカメUI入門《まとめ》03

このnoteは過去の記事をまとめたものです

撮影UIは従来の作法を基本としていますが、その周辺にはデジタルならではの世界が広がっています。

この《まとめ》03は、カメラがデジタルになったことで、接続されたもの、広がったものについてまとめます。

03_より広く楽しむためのUI
7: カスタマイズ
8: スマホ連携
9: フォトSNS
10: 未来のデジカメ


デジカメUI入門:7 カスタマイズ

カメラの操作性をカスタマイズをする目的は、良い写真を撮るために使い勝手を上げるためですが、カスタマイズをすること自体にUXとして愉しみがあります。

撮影前にカスタマイズするときが愉しく、それを使って撮影するときが楽しく、写真を見てそれが効果的だったら嬉しく、他の人に褒められると嬉しい。

それが「カスタマイズUX」です。

もちろん、新しいレンズを買うことも、革のケースを付けることもカスタマイズと言えますが、この記事では、「撮影設定セットを作るカスタマイズ」と「カメラの使い勝手を変える操作性カスタマイズ」について書きます。


操作性のカスタマイズ

カメラにはいくつかのボタンやダイヤルが装備されており、それに良く使う機能を割り当てることで使い勝手を向上させるのができます。
こちらも画調カスタマイズと同様に、カスタマイズをおこなうとカメラが急に自分の相棒になったような気持ちになります。

LUMIX G9のファンクションボタンは19個もあり、100個近い機能から選択することができる


撮影設定セットのカスタマイズ

自分の作風として全ての撮影で使うように画調を調整するものと、特別なシーンに使うためのスペシャル設定の2つの使い方があります。
作風用の設定は主に前の記事で書いた「画調」のカスタマイズを指します。
それに対してスペシャル設定の方は、ドライブ(連写)設定やフォーカス設定を含んだシーンモードに近いものになります。

ダイヤル/レバーUIはカスタムの敵
モードダイヤルやドライブモードダイヤルなど、物理的に操作するUIは、カメラらしさを演出する上で人気がありますが、カスタム設定で切り替えることができないため、撮影設定をまとめて切り替えることができなくなります。

そのような理由から、撮影モードも含めて全ての操作をボタンと電子ダイヤルでおこなう機種もあります。

プロ機であるキヤノン EOS-1Dはモードダイヤルを持たないことで、カスタム設定で必要な設定をまとめられるだけでなく、完全な設定リセットを実現している。


カスタマイズを育てよう

ユーザーカスタムの設定には2種類あります。
一つは、現在の設定状態をそのまま記録するタイプです。
もう一つは、メニューのような設定一覧で作り上げるタイプです。

作り方よりも重要なのが、上書き保存できるタイプかどうかです。
カメラの中には、PASMモードからしかカスタム登録できないものがありますが、それでは呼び出したカスタム設定を少し変更して上書き保存することができません。
カスタムモード上で設定を変更して、そのままカスタム登録できる機種を選ぶことで、カスタム設定を少しづつ育てていくことができます。

LUMIX G9は現在の設定を記録する方式をとっており、カスタムモード内で少しづつ編集しながら上書き保存することで、カスタムを育てていくことができます。



カスタム設定は大切な資産

カスタム設定はユーザーの資産で、ファームウェアのバージョンアップやカメラの故障などで失われることがあってはなりません。

これからAIの登場で、カメラがよりパーソナル化していきますので、それらの情報保全も合わせて考える必要があります。
既にいくつかのカメラでは、SDカードへの書出し、スマホへのバックアップ、さらにネットサービスへの保存をしてくれます。


素晴らしいカスタマイズはシェアしよう

時間と手間を掛けて作り上げたカスタム設定は、本人にとって価値があるだけでなく、同じようなシーンを撮影する人や表現を目指している人にとっても価値があります。

カスタム設定をシェアして、尊敬やお礼を含む対価が受け取れるなら、シェアをしても良いと思う人もいるでしょう。クックパッドや食べログに記事を書く感覚に近いかもしれません。

自分の撮影した写真にイイネを付けてくれた人に、カスタム設定をシェアし、その設定で撮影した写真をコミュニティの中にアップしてくれたら、仲間との繋がりを強く感じることができます。


でも実際にカスタマイズしている人は少ない

カスタマイズすると楽しいよ。良いことがあるよ。と言っているが、実際にカスタマイズを楽しんでいる人はほとんどいないと思います。

なぜななら、カスタマイズするUIが楽しくないからです。
情報は少ないし、だれとも共有できないし、カスタムの内容を自慢してイイネがもらえるSNSもありません。

ここに書いてあることは、ある意味UIデザイナーとしての夢です。
近い将来、スマホでカスタマイズでき、いくつものカスタム設定を管理でき、SNSで仲間とシェアできるようになれば、状況は少しづつ変わってくると思います。




デジカメUI入門:8 スマホ連携

フィルムカメラと違い、デジタルカメラはそれだけで完結した製品で、撮って見るだけなら他の機器やサービスを必要としません。

初期のころはそのことが商品価値の本質でもありました。
フィルムを現像にださなくても、その場ですぐに見ることができ、充電と消去をおこなえば無限に撮影することもできることが画期的でした。

一方でデジタル機器としてデジカメは、様々な機器やサービスと接続して、機能やユーザーの体験を拡大することも得意としていました。

以前のデジカメは、写真の編集や管理・活用をするためにPCへ画像を転送することが主流でしたが、現在はスマートフォンのアプリと一緒に使うことで撮影現場でのカメラコントロール(リモコン)機能やGPSデータのタグ付けなどにも連携内容が広がってきています。


スマホのリソースを最大限に活用する

ではスマホのどのような特徴がデジカメとの連携において効果を持つのかみてみよう。


●大画面
撮影ファインダーとしても再生モニターとしても大画面であることで、より細かい確認ができ、タッチ操作もやり易い。

●外部との通信

データ通信によって、撮影した画像をすぐにSNSにアップできるだけでなく、カメラの空間・物体認識情報やファームウェアなどの情報を常に最新にしておくことができる。

●位置情報の取得

GPSやWi-Fi、基地局の情報によって、野外だけでなく室内でも高精度に位置情報が取得できる。

●高度な計算能力(AI/AR関連)

スマホアプリの高度化と共にそれを実現するシステムの能力が高度化しており、計算リソースとして活用することができる。

●リッチなUI

音声認識、加速度センサー、方位センサーなどを組み合わせれば新しい操作体験を提供できる。

●データ保存

複数のカメラに共通するデータを保存しておけば、バックアップになるだけでなく運用がシンプルになる。

ちょっと書き出しただけでも、スマホのリソースを使うことでデジカメをパワーアップできることが分かります。

またリモコンとして使われている通り、カメラから「分離」ていることによって次のようなメリットもあります。

・操作によってカメラに振動を与えない(動画撮影中に設定変更が可能になる)
・複数カメラを同時に操作できる(HUBの役割ができる)
・安全なところから操作できる(撮影領域の拡大に伴う危険を回避できる)


このように、データの活用だけでなく、デジカメUIとしてもスマホとの連携は大きなターニングポイントとなりました。

スマホからみれば撮影能力を拡張するだけに見えますが、
デジカメからみると欲しかった機能の多くを手に入れられる幸せな結婚のようなものです。

以前は、「スマホ vs デジカメ」でしたが、今は「スマホ + デジカメ」に考え方が変わっています。


Lumix Image Appのトップ画面 さまざまな機能が並んでいる。

では、ここからはスマホ連携の特徴をそれぞれ見ていきましょう。


大画面が利用できる

デジカメの背面液晶も20年前に比べれば格段に大きくなりましたが、スマホの画面ほど大きくなる気配はありません。
手に持って使うものである以上、やみくもに大きくすることは難しいと判断しているようです。

スマホと連携することで、大きな画面が必要なユーザーは、大画面スマホやタブレットを利用することができるようになります。
6インチのスマホであればデジカメに対して4倍の面積になります。

撮影モードでは、より細かくピントや画面内の様子を確認することができ、再生モードでは、画像編集時の2画面比較表示や様々なエフェクトのパレットを並べることもできるようになります。


機器から独立している

リモコンとして利用することで機器の設置状態とは関係なく、自由な場所やスタイルで撮影することができます。いわゆる「UIの外部化」です。

スマホが従来のリモコンと違う点は、カメラの全てにアクセスし、場合によってはカメラUIを超えることもできる点です。

特に、ズームやフォーカスが電動化されていれば、カメラに全く触れなくてもよくなるため、撮影領域や表現領域の拡大が期待できます。

また、独立していることで、データのバックアップ先としても有望です。
万が一カメラが事故にあっても、スマホにデータが残っていれば失わずにすみます。


外部との通信機能を持つ

インターネットに対して常に接続できることは、写真を撮る動機としてSNSの存在が大きい現在では、写真の活用やコミュニティへのシェアがすぐにおこなえることは、それだけ撮影機会を増やすことにつながります。

特に期待が大きいのが「フォトレシピ」です。
撮影には、カメラの設定とそれ以外の環境作りのノウハウの両方が必要ですが、クラウドとカメラの両方に繋がっているスマホはまとめて扱うのに最適な存在といえるのです。

またカメラに必要な情報を常に最新のものにしておいたり、必要なときに取得することができるようになり、閉じたUIから、常に進化し続けるオープンで動的なUIに変わっていくことができます。


位置情報の取得

GPSやWi-Fi、基地局の情報によって、野外だけでなく室内でも高精度に位置情報が取得できます。
ただし、撮影方向(方角)はカメラ自身でなければ取得できないので、データの連携が必要です。


リッチなインターフェイス

現在でもカメラメーカーは、スマホに比べてカメラの方がリッチなインターフェイスを持っていると考えています。

これは、ダイヤルやレバーを含むSUI(ソリッド・ユーザーインターフェイス)が撮影行為に最適であるという考え方です。

現在の撮影という行為を前提にすれば間違っていませんが、今後のカメラと撮影者の多様な関わり方を想定した場合には狭い考えと言うこともできます。

スマホと連携することで、スムーズなタッチ操作だけでなく、カメラや音声認識などリッチなUI技術を利用することができるからです。
その利用方法が、まだ十分に活かされてはいませんが、撮影前後も含めて活用されるときが来るはずです。



スマホ連携から生まれる新しい撮影スタイル

スマホ連携に特化し、液晶モニタなどほとんどのUIを持たないカメラが「レンズスタイルカメラ」です。

GoProなどのアクションカムやTHETA、ドローンカメラなども同じUI構成の製品になります。

カメラの形が自由になるだけでなく、撮影スタイルや撮影領域が大きく広がりることがメリットです。

OLYMPUS AIRの自由な撮影スタイル

RICHO THETAはスマホ連携があったからこそ生まれたカメラで、静止画や動画と違って、見るという行為にインタラクションを必要とする点で非常にスマホ的だといえます。


ユーザーがUIを自由に作れる

カメラメーカーがSDK(API)を用意することで、ユーザーが好みのUIを作ってカメラを操作することができます。
スマホのアプリは誰でもという訳にはいきませんが、本屋にいけば書籍が並び自由にユーザーが作れる環境が揃っており、他のIoT製品でもSDKを提供しているものがありますので、今後広がる可能性は十分にあります。

また、アプリの形でなくても、Minecraftからカメラをコントロールしたり、ゲームの延長として、スマホと連携する方法の方がより現実的かもしれません。

OLYMPUS AIRのOPC Hack&Make Projectのホームページ
SDKと3Dデータを配布し、ユーザーがカメラとの関係を作ることができます

スマホ連携とは違う話になりますが、外部拡張UIで考えると、底面にあるバッテリーグリップ用の電子接点やアクセサリーシュー周辺の接点はシリアル通信ができるようになっているので、ArduinoやRaspberryPiを接続すればで電子工作によってもUIを拡張することができます。



デジカメUI入門:9 フォトSNS

カメラがスマホ連携しクラウドとつながることで、写真に関わる全ての行為がシームレスにつながるため、「フォトSNS」もカメラのUIの一部になります。

むしろ、大きなフォトSNSのUXの中に、デジカメUIが取り込まれていくと言った方が良いのかもしれません。

実際、全てのSNSアプリは、その中で撮影ができるようになっており、他の人の情報に刺激を受けて撮影することを想定しています。その途中でフィルターを掛けたり、友達から写真をもらったり、昔の写真を見たりできるように総合的な体験設計がされています。

これは現在のスマホアプリの話ですが、カメラのスマホ連携がより進んでくれば、カメラで撮影しながらもSNSの中で撮影に必要な情報を入手したり、設定をおこなうことができるようになります。
また撮影の様子をSNSにそのままシェアすることもできるようになります。

このように、撮影の動機発生から、撮影の準備、実行、その後活用とコミュニティからのフィードバックまで、大きなサイクルの中で撮影を楽しむことにつながっていれば、それは新しいデジカメUIと考えることができます。

また逆に、デジカメUIである画調コントロールやカスタマイズも、SNSの中でコンテンツとして扱うことができれば、「写真を語る」という文化が今以上に盛り上がり面白くなってくるのではないでしょうか。


フォトライフSNSが登場

現在は、生活を自慢「ライフ系SNS」と写真を見せ合う「フォト系SNS」の間には距離がありますが、その中間の「フォトライフSNS」が登場するのではないかと考えています。

Instagramの一部ではそのような使われ方がされていますが、私がイメージしているフォトライフSNSのサービスでは、写真を見せるだけでなく、撮影の行為や活動をシェアして楽しんだり、撮ることをサポートできるようにして「撮る×シェアする」のサイクルで成長体験を共有できるというものです。


メーカー系のフォトSNSに比べて、機材の話題よりも、表現の話題の比重が高く現在フォトライフSNSにもっとも近い存在のInstagram

ここに、撮影ノウハウと設定のシェア機能が実装されれば、より「自分も撮影してみたい」に近づけることができる

多くのSNSが「豊かな生活」をコンテンツにしているのに対して、「豊かな撮影」をメインコンテンツにし、カメラさえ持っていれば誰でも楽しめる新しいSNSができることを期待しています。

この撮影を中心とするコンテンツを「フォトレシピ」と私は呼んでいます。


豊かなフォトレシピはユーザーがつくる

フォトレシピは、メーカーが作成することもできますが、ユーザーの撮影の記録として作られるべきです。その理由について考えてみます。

①より多様な情報が欲しい
カメラの仕組みや、露出やホワイトバランスの説明をいくら知っても、実際に表現したいようには撮れません。
そのためにフォトスタイルごとに細分化された情報が提供されています。
ところが現在の出版のコストを考えると全てのジャンルの本を作ることはできません。
特に一般的ではないジャンルでは大手の出版社で扱われることが無いので、似たような内容の本ばかりが並んでしまいます。
ユーザーの一部の人が、自分の好きなジャンルのフォトスタイルについて、作品の発表と一緒にレシピを書いてくれれば、多岐に渡るジャンルを網羅することができます。


②撮影体験がメインコンテンツになる

ユーザーと言っても初心者から上級者までさまざまな知識・経験レベルの人がいます。

上級者は、経験や理論で撮影ノウハウについて理解しており、切っ掛けさえあれば誰かに教えたい(語りたい)と思っている人が沢山いると思います。
現在既に写真を公開して楽しんだりしている人が、フォトレシピを公開するようになれば、初心者などから感謝されたり、上級者同士で認め合うようなコミュニティができるはずです。

さらに、上級者だけでなく、自分の作品と工夫した点(失敗した点)をフォトレシピの形で共有する仕組みができれば、写真が最終アウトプットという旧来の活動から、撮影体験そのものがメインコンテンツになっていくことになります。

昔のゲームはハイスコアの情報だけが共有されていましたが、友達同士では攻略法(ノウハウ)が会話の中心でした。そして今ではゲーム実況が重要なコンテンツになっています。

今でもブログ記事で同様の発信をしているユーザーがいますが「クックパッド」のようにフォーマットを共通化して検索性と展開性(派生)を向上させることで新しい価値が生まれると思います。


③メーカー間で共通の中間フォーマット

フォトレシピは単に文章で撮影ノウハウを書くだけではありません。カメラの設定をカスタムモードのように設定できる仕組みと組み合わされます。
そのために、各社のカメラがフォトレシピからカメラ設定ができるようにしなければならないのです。

ニコン、キヤノン、ソニー、パナソニックはいづれも基本的なパラメーターのUIを提供しているので、相互にパラメーターの交換がやり易くなっています。

もしこの4社が中間フォーマットからの変換アプリ、またはAPIを出してくれればデファクトになることは間違いありません。
もちろん、アナログで実現する機能もデジタル技術で置き換え可能にすることで、スマホアプリもこの仲間に加わります。
これに対して独自のレシピにこだわりを持つ富士フイルムとオリンパスがどのように対応してくるかは興味深い問題です。

スマホの絵文字は、キャリアの壁を越えて相互にやり取りでき、ユーザーが便利でコミュニケーションが成立しやすいようにすることで価値を高めることに成功しています。フォトレシピも同じようになれるはずです。

新しい価値アイテム(レシピ)やコミュニケーション(中間フォーマット)を実現することで、写真の価値、それを生み出すカメラの価値は高まっていくことになります。



デジカメUI入門:10 未来のデジカメ

みなさんは「未来のデジカメ」と聞くとどんな”カタチ”を想像するでしょうか?

透明の板でできたスマホカメラ
MR(VR)メガネ
レンズはドローンで空を飛ぶ

広い意味でカメラ機能と考えれば、あらゆるものにカメラが搭載され、私たちの活動をデータ化し、さまざまなサービスを提供するシステムの一部になっていると予測できます。

ここではデジカメのユーザーインターフェイスを中心に、人間が何かを表現したり、自己帰属した「作品」を作る行為としての撮影について話をしてきましたので、データ取得のための撮影や、人間の指示の無いロボットの撮影(ライフログ)とは少し切り離して予想をしてみたいと思います。


UIの外部化/多様化
スマホ連携が全てのカメラの基本機能になり、さらに多くのコントロールがスマホからできるようになります。

上位機種ではAPI(SDK)の公開が、現在のテザー撮影と同じくらい普通のことになると思います。

画像認識によって、撮影に変化を与える「プログラマブル・フォト」が登場し、再生(鑑賞)でも面白いインタラクションをたのしめるようになるかもしれません。

具体的な例をあげると、ファッション業界(モデル撮影はその中に含まれる)の撮影では、モデルが全身に身に付けたアイテムから化粧品まで全てが、意図通りの表現になるようにショットが厳選されると同時に、ユーザーはさまざまな製品の表情を確認できるようになります。

洋服の素材感(やわらかさ)を感じさせる動きが抽出されたり、口紅の色番号を入力することで最適な印象表現にしてくれたりするイメージです。
それが一部のプロに使われるようになり、その後Instagramのようなアプリの中で誰でも使えるようになります。

またタフカメラのように子供が使うことを想定している機種は、Scratch(子供向けプログラム言語)でコントロールできることが当たり前になり、ゲームの入力として、特定の写真を撮ったり、最高得点が出たときに記念撮影をしてくれるような使われ方をすることになります。(きっと子供の発想はもっと面白いはず)


ロボットカメラ/カメラロボット
カメラと撮影者の分離は、同時にカメラの自律移動の進化でもあります。
aiboやドローンのように自由に移動しながら撮影できるようになった場合のユーザーからの撮影指示の方法は現在のUIとはだいぶ違ったものになります。

道具の操作ではなく、知性ある機器への「依頼」という曖昧な指示によってさまざまなことが実行されるようになります。
その場合に写真は誰が撮ったのかという問題がでてきますが、ユーザーの意思が不在になる訳ではありません。

被写体中心の場合は、被写体のどんなアングルや行動を記録したいかを、シミュレーションによって指示します。
一般に流通しているテンプレートを編集しても良いですし、自分が撮影した画像を学習させることも可能です。

空間(風景)が中心の場合には、3D化したGoogle Mapを使ってじっくりとシミュレーションすることもできますし、現場に行って実際の風景を感じながら自分の足で動き回るようにドローンに指示を与えることもできます。

いづれでも、いままで撮影現場で撮影者がおこなってきた、行動領域を大きく拡張することになるため、必要に応じて事前指示(シミュレーション)を活用することになります。
また全部撮りしておき、その中からベストショットを選択するというUIも撮影の一部になります。(現在のフォーカスセレクトに近い考え方)


クラウドとの接続
現在は「写真データ」をクラウドに上げて自動分類やタグ付けなどのサービスを受けていますが、
近い未来には「設定データ」と「ユーザー情報」もクラウドに接続され、写真+設定+ユーザーのコンテキスト情報が利用され、UIの個別最適化がおこなわれるようになります。

設定データは現在のカスタム設定の保存としてすぐにでも実現していきますが、ユーザー情報と全体のコンテキストから総合的な情報として扱うには少し時間がかかるかもしれません。

写真には「撮影者は写らない」という問題があり、撮影者の情報はかなり少ないのが現状です。
スマホのインカメラのようなものがアイセンサーの置き換えとして実装され、そこからユーザー情報が収集されるようになります。(FaceIDのカメラ版です)

また撮影時だけでなく、撮影後のSNSへのシェアでも、テキストや音声を付けることでコンテキスト情報は豊かになっていき、ライフログとして蓄積されていきます。

現在はバラバラの情報をどこが一元化して、そこからコンテキストを抽出しユーザーにサービスを届けることができるかの競争が始まっているのです。
(Instagram、Facebookがかなり有利な位置にいますが、撮影に特化すればカメラメーカーにもまだチャンスがあるかもしれません)


コミュニティとの一体化
これまでも写真は友達や家族といったコミュニティと密接に関係して撮影されてきました。

最近では、SNS(広い意味の友達)でコミュニティも広がってきており、一緒に写真に写るのではなく、写真を見せることを通してコミュニケーションをとっている関係が大きく増えてきています。(これまでの友人・家族ともSNSでつながっている状況です)

写真を撮る行為も、大きなコミュニティとの関係の中で、動機が生まれ知識を得、それをまたコミュニティにシェアしていくというサイクルを回るようになり、カメラのUIもそのサイクルを意識したものになっていきます。

その一つの例として、「シューティング実況」では、撮影現場にいるのは一人だが、ネットを通してみんなで撮影を楽しむことができたり、
運動会で複数カメラがお互いに空間・被写体情報をシェアして撮影する「チーム撮影」ができたりします。

もちろん一人でじっくり撮影したいという人には、「(撮影世界に)いってきまーす」「おかえりなさい」で楽しむこともできます。


画像認識/AI

ここまで書いてきた新しいUIの基盤となるのが、画像認識やAIの進化です。
既にディープラーニングを使ってAF性能をあげるなどの事例が出始めており、今後も技術の進歩と活用は進んでいきます。

問題は、「高性能」→「賢い」→「カメラ任せ」のユーザーのメンタルの変化がどの段階で起こるかで、UIはその変化を上手にコントロールしていく必要があります。

カメラという製品にユーザーが求めているものが、どのような賢さや自立性なのかを時代とともに常に確認をしながら、ユーザーに何を残し、何を体験させるのかを考えるのがUIデザイナーの仕事です。


補正から、エフェクトへ。AI時代のUX

忠実性から、演出性へ
マイナスからゼロへ、ゼロからプラスへ

それぞれ表現は違いますがデジタルカメラのUXに対するマインドセットの変化を表している言葉です。
これはデジカメの特殊な例ではなく、多くの製品で今起きている、またはこれから起きる変化と考えられています。

機器の自動化のレベルが低かった時代には、必要に応じて人が手助けをしてあげなくてはいけませんでした。
クルマの場合、ATで平地を走っている限りはシフトレバーを操作する必要はありませんが、坂道ではシフトダウンを手動でおこなう場面があります。今はさまざまな制御技術の進歩やカーナビと連動することでその場に相応しい動作をユーザーの操作無しに自動でおこなえるようになってきています。

デジカメの場合も同様に、昔は逆光などでは露出補正が必要でしたが、今は人物を認識して自動で適正露出に設定できるようになったり、さまざまなシーンを学習することで最適な設定を自動でできるようになってきています。
いずれの例も、製品の自動化が賢くなることで、マイナスな状況、補正が必要な状況が減ってきており、やがて無くなります。


ユーザーのやることが無くなっていく

製品が賢くなり、自動化が進むことで、失敗や事故が減ることはユーザーにとっても良いことですが、
クルマを操る悦び、写真を自分が撮ったと感じることが、減ってきていることでもあります。

ユーザーは、自分に一定の役割と責任を持ちたいと思っており、これは全自動を追求する炊飯器や洗濯機とは少し違う、ヒトとモノとの関係が強い製品に特有のものです。
この状況に対して人間は2つの方向で、自分のやることを作り出そうとしています。

一つは、(一部の)自動化をOFFにして、自らがそれを実行する方法です。クルマではミッション操作を自分でおこなったり、カメラではフォーカスをマニュアルにしたりすることがこれに当たります。

もう一つは、自動化で役割が減りできた余裕によって、新しい役割を見つける方法です。
クルマではそれが何になるのかまだ分かりませんが、カメラでは新しい撮影テクニックを含む「エフェクト(演出)」をおこなうことが定着しそうです。


何もしなくても忠実な写真が撮れる時代に必要な演出

写真を失敗しないことが「写真が上手い」と言われた時代から、より魅力的な写真を撮ることが求められる時代になってきています。

写真が自分や家族、友人の間で、それを見る文脈を持った人にだけ見せていた時代から、デジタルネットワークを通して多くの知人(フォロワー)に見てもらうことで生じた変化です。

何もしないことがリスクだった時代から、何かすることがリスクの時代に
何かを自分自身でやりたい。何か意味(価値)のあることをやりたい。という2つの目的を「エフェクト」は達成させてくれますが、
それは同時に、失敗するリスク、残念な結果になるリスクを大きくします。
極端なエフェクトは、バッチシ決まると最高ですが、外すとイタイことになります。

リスクが大きいということは、UIの役割が重要ということであり、デジカメUIはそれらのコントロールができるように、ユーザーにフィードバックを返し、充実した操作体験を提供していかなければなりません。
この新しいUI課題に対して、AI技術の進化を見通し、どのメーカーが最初に答えを出すのか楽しみです。



おわりに

写真とは「真実を写したもの」と言われていますが、映像技術が進化した現在では、映像が全て真実とは言えなくなっています。

しかし例えフェイクニュースであっても、何かの「意図」をもって作られている以上、そこにはより強い意味の「真実」が表現されていると考えることもできます。

未来のカメラを考えることは「未来の写真を考える」ことと同じです。
それはきっと人間が「こうなって欲しい」と想像するものが映像になる世界です。

人間の意図を反映するためには、何らかの方法でカメラに人間の考えや思いを伝える必要があります。それがカメラUIです。

将来はBI(脳と機器が直接やりとりするインターフェイス)も使われるようになると思いますが、その前は人間が積極的にカメラを操作する必要があります。

カメラを操作することを楽しい、UXの一部として意味のあるものにしていけば、カメラという道具で写真を撮ることがもっと濃密なものにできます。
手を抜こうと思えばいくらでも楽(らく)ができる時代に、手間をかけること濃密な関係を作ることで楽しさを倍増するUX/UIをデザインしたいのです。

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