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私をカテゴライズするな「美術館女子」

Twitterでトレンドに上がっていた「美術館女子」

それはかつて「歴女」「刀剣女子」と呼ばれた時に感じたモヤモヤしたものと同じで、ようやく言語化できそうなので記事にしてみました。
なお、「美術館女子」の企画についてはいろいろと思うところはありますが、今回の記事の主題ではありませんのでさらっと書きます。

「美術館女子」の記事を読んでも企画の趣旨がぼやけていて、なにをとり込みたいのかはっきりしない。
これだけジェンダー問題が取り沙汰されている現在、「~女子」を前面に提示する企画側の意識が気に入らない。
女子なんてこんなもんだろ的な意識が透けて見えて気持ち悪い。

というわけで、この記事は「美術館女子」への反発感満載でお送りします。
「美術館女子」への反発心を分解し、
【他人にカテゴライズされることへの嫌悪感】
について書いていくつもりです。

なお、記事で用いる「カテゴリ」は主体的に選択できる分類について使っています。
事実に基づき客観的にカテゴライズすべき分類(生物学上の分類や制度上の分類等)については当てはまりませんのでご了承ください。

「美術館女子」ってなに

では、「美術館女子」とはいったいなんでしょう。
記事内に美術館女子を定義できるような記述は見当たりません。
ただ、記事の内容から、
美術館にいるステキな女性、
という意味にしたいんだろう、とは感じました。
もうちょっと踏み込めば、
①積極的には美術館に訪れたことのない、
②モデルのAKBの女性と同じくらいの年代の
③女性
に向けて発信したかったんだろうな、ぐらいまではなんとかくみとれます。

しかし、内容と趣旨がかみ合っていません。
モデルは被写体になっていて主体者ではありませんでした。
この企画のタイトルにかかげられた「美術館女子」は果たして企画者の期待通りにターゲット層に受け取ってもらえるものでしょうか。
(まあ無理でしょう。すでに炎上済ですし)
私も彼らがなにを期待していたか、予想は書きましたが自信はありません。
そして、記事の内容を読んでさえ、この程度のことしかとらえられないのです。

さて、問題はここからです。
記事を離れて「美術館女子」という言葉がカテゴリと認識されるようになった場合、多くの人は字面から
「美術館にいる若い女性=美術館女子」
ととらえるようになるでしょう。
美術館には様々な楽しみ方があると思います。
美術品観賞が目当ての人
レストランやミュージアムショップ、庭園等を含めた施設全体を楽しむ人
記事のように「美術品と自分」を写真に撮ることが楽しみな人
美術館がもしこの行為を許しているのだとして、その範囲内でどのように楽しむかは個人の好みです。
その個人に対して、年齢や性別は不要なカテゴリのはずです。

だからもし、
「美術館人」
というコピーならまったく反発心は生まれなかったでしょう。
私もその中の一人である、というだけです。
たまに「美術館」にいる「人」であることは間違いありませんから。
もっとも、コピーとしての役割は果たしていませんけれど。

コピーやキャッチフレーズというのは余計な枝葉をそぎ落とすからこそ、人々の印象に残るものです。
今回は削りすぎて、その言葉が内包する問題を無視したように思います。
「美術館女子」は明らかにジェンダーを含んだ言葉です。
コピーとしては優秀でも、切り落とされた枝葉は無視できない大きさです。

さて、私は「美術館女子」でしょうか

私はそれほど頻繁には美術館に行きません。
特設展目当てに年に3回も行けばいいほうです。
各美術館の常設展にもほとんど興味はありません。
また、美術館の建屋はそれ自体が美術品として成立している場合がありますが、これもそれほど興味のある分野ではないのです。

そして私はASDです。
ASDの私にとっては文字情報が最優先事項です。
「美術館女子」という字面からこれを定義すると、
「美術館」自体を目的にそこに通う10代後半~20代の女性、
という定義となります。

そもそも私は、女子、というカテゴリを年齢ではなく、
所属する集団内で用いられる制度上の分類(例:女子児童、女子生徒)、
と認識しているので、ここに女子を使用すること自体好ましく思いません。
ただし、その「そもそも」を書き出すと主題から離れすぎるので横に置きます。
横に置いたけれど嫌な気持ちにはなっています。
本当に無理やり定義付けしています。

さて、この私が「美術館女子」というカテゴリに入るか。

入りません。
入りたくありません。

他人をカテゴライズする

私は「美術館女子」ではない、という結論が出ました。
なので企画自体には賛同できませんが、私には関係の無いことです、と放置しておいても良いのです。

ところが、放置しているとどうしてか私を「美術館女子」だと言う「誰か」が現れます。
この「誰か」は現在私の周辺にいるわけではありませんが、放置していれば発生する「誰か」です。

私が、
「美術館」を目的として訪問することはないし「女子」でもないので当てはまらない
と主張するのに対し、この誰かは
「美術館」に行くことに違いはないし、20~30代の女性は十分若いから「女子」だ
と言います。

そしてなぜかこの二つがぶつかると、「誰か」の認識が優先されるという事態が起きることがあります。
この気持ち悪さが杞憂に終われば良いでしょう。
しかし「歴女」でも「刀剣女子」でも、私はこういった「誰か」に出くわしてきました。
彼らは私を勝手にカテゴライズして、私が違うと言っても聞き入れません。
(実際、興味の範囲は当初の歴女の定義に当てはまらず、刀剣女子というには知識不足だったのです)

これはジェンダーだけでなく、LGBTQにも当てはまることですが、どうして自分ではない他人をカテゴライズする必要があるのでしょう。
カテゴリというものはその結果集団を作り出します。
どの集団に属するか、それはアイデンティティの問題です。
どうして、自分が何者であるのかという問題に他人が介入できるでしょう。
本人だけが決めていい事柄でなければいけない。
本人が「私はこうである」と言っているのだから、その他に結果が発生するわけがないのです。

他者に対して本人の自認を却下し、「あなたはこうである」と自分の基準を用いた分類を当てはめ、これを認めよとせまる。

文章にすると非常に横暴であると分かります。
他人の自己決定という本来であれば不可侵の領域をおかしているからです。
しかもこの基準について、客観的に分類すべき事項と主体的に選択すべき事項をまぜて構成していることもよくあるように思います。
「あなたは女の子だから」「若いんだから」「ゆとり世代だから」「文系だから」「母親だから」などなど
よく聞かれるカテゴライズです。
「性自認」と「生物学上の性別」をまぜてしまう。
「生物学上の性別」と「社会的役割」をまぜてしまう。
しかも、まぜている本人にその自覚がない。
それと同じで他人を気軽にカテゴライズする人には、
「他人を自分の認識に基いて分類している」
「分類に役割を追加して他人に押し付けている」

という自覚は無いことのほうが多いでしょう。
この「自覚の無さ」が非常に厄介です。
自分の認識=世間一般のあたりまえ、という人だからです。

「美術館おじさん」だとしたら

仮に「美術館女子」が「美術館おじさん」と題された企画で、
一般的に人気のある50-60代の男性俳優が、
AKBのモデルの女性と同じように「美術品と自分」の写真にコメントする記事だったら、
企画者の目論見に沿って成功したでしょうか。
おじさんと呼ばれる世代の男性たちはそれを見て、
美術館に行きたいと思うのでしょうか。
自分も「美術館おじさん」としてカテゴライズされたい、と思うのでしょうか。
美術館に行った翌日に、職場や趣味の場で、
昨日美術館行くって言ってましたよね。
流行りの美術館おじさんですね!
と言われた場合、それを嬉しく思うのでしょうか。

ジェンダーを含む言葉で他人にカテゴライズされる、というのはそういうことなのです。

「美術館女子」への嫌悪感とは

つまり【他人にカテゴライズされることへの嫌悪感】でした。
かつての私は自分が感じた「嫌な気持ち」をとらえきれずに、そのまましまっておくことしかできませんでした。
なにが嫌なのか、主張することができなかったからです。
しかし年齢を重ねていく中で、私が嫌だと感じるものがだんだんと増えていきました。
「歴女」や「刀剣女子」というメディアが作った特別な呼称だけでなく、「奥さん」「お母さん」「女性」という一般的に使用されるものにまで及びます。
もちろん、子どもに「お母さん」と呼ばれることが嫌なわけではありません。
医療機関で「女性」だと伝えることにも抵抗はありません。
私はASDでADHDですので、必要な場面でこれを伝えることも問題ないことです。
ところが、このカテゴリを関係のない場面で持ち出してくる人の多いこと。
食事の場面で「女性なんだから取り分けて」、
仕事中に「奥さんなんだから気を使って」、
うるせえよ、ってなもんです。
取り分けたかったら本人が取りわけたらいいし、
気づかいを求めるくらいなら要求事項をはっきりと提示すればいい。
他人をカテゴライズすることは、自分の欲求を他人に受け入れさせるためのいいわけだと気づいてほしい。
その行為がどれだけ醜悪か分かるでしょう。

他人をカテゴライズしている自覚のない人たちに向かって、
私をカテゴライズするな
と言いたい。
私自身を分類していいのは私だけだし、

私の自己決定に対して他者が否と言うことはありえないのです。

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