涙を流しながら食べた蕎麦の話
私は週1で映画館に足を運ぶくらいの
映画好きなのだが、最近、飽き飽きしていたamazon primeで「好きな邦画ランキングTOP5」に入るくらいの素敵な作品を見つけた。
「食べる女」という作品だ。
正直、映画好きを豪語しているがそこまで博識なわけではないので
見るのは好きだが、コメントするのは苦手である。
なので、一般的なアラサーが暇つぶしに見た映画がすごいよかったみたいな感じで軽く読んでいただけたら嬉しい ←
その作品は古民家に住む小説家の元に
恋や愛に疲れた様々な境遇を持つ女たちが集まり、食を通して癒されていくというような話だ。
小泉今日子が主演で、わき役は、鈴木京香や広瀬アリスや沢尻エリカ、前田敦子などの
主演級の実力派の女優が出演している。
それぞれの女性には小ネタがあるのだが、
私は沢尻エリカの演じるドド(圭子)に激しく自分を重ねてしまった。
彼女の役柄としては。恋愛から逃げ腰な出版社勤務のキャリアウーマンで蓄財に励む女性なのだが、30歳をすぎそれなりに稼ぎがありついに都内に自分でマンションを購入した。
彼氏がいたのは4年前で冷たい都会に小さな城のを立てた孤独の嬢王様みたいな役柄だった。
そんな彼女がひょんなきっかけで出会った男性がすごく料理上手な男性だった。
だいぶ話をはしょってしまうのだが、頻繁にその男性と夜ごはんを共にするという不思議な関係性になるのだが、のちのち男女の関係になった後から、しばらくして彼の北海道出張が決まる。
挨拶に来た時に彼女は家にいなかったため彼からのラブレターとともに、愛情いっぱいのお弁当が玄関のドアノブにぶら下がっていた。
実家のお母さんがお花見にいくときにつくるような重厚なお重が二段。
その蓋をあけると白い俵状のおむすびと、和牛のしぐれ煮、エビの南蛮など、シンプルながらも彼の余韻と愛を感じるおかず達がギュッと詰め込まれていた。
食べるのが大好きで「あんたはいつも食べてるときは幸せそうね」と小泉今日子に吐き捨てられていた彼女が、俵状のおにぎりを一口食べた瞬間に、じわっと涙が一粒こぼれ、彼女のお人形のようなきれいな顔がぐちゃっと歪む。
このシーンに心をつかまれて
新卒の頃に泣きながら食べたお蕎麦をふと思い出した。
私も僭越ながら食べている顔の幸せさをよく褒められるくらい食が大好きなのだが
その時は食事を食べる暇がないくらい働きづめな時期だった。
副交感神経が休まることもなく、一日11時間くらいPCと向き合っていたときだった。
自分のくだらないこだわりとプライドに振り回されて仕事で失敗をして悔し泣きをした後に、たまには美味しい食べ物を食べて精を出すぞと、いつもは歩かない会社の裏の道を歩いていた。
そういえばここらへんに、前に同期が言っていた美味しいお蕎麦屋さんがあったなと
泣きすぎて詰まった鼻水をずるずる吸い込みながら自然があふれる神聖な裏道をあるいた。
その時期はまだ夏になる一歩手前で、じんわりとしめった空気とぬるっとする暑さが
印象的な雨期だった。
その店は、数多くの名作を生み出した日本の巨匠、黒澤監督の家庭料理を元につくられるとんかつや蕎麦が名物だった。
元々、料亭だった建物を黒澤組の美術スタッフが改装した店なのだが独特の風情がある。
新卒二年目の私にしては中々高い蕎麦の値段であったが、いろいろと躍起になっていたのでおすすめの蕎麦を頼んだ。
朝からなにも胃にいれていなかったからなのか、泣きすぎたからなのか、とにかく汁物をほっしていた。
泣きすぎて少し鼻はつーんとしていたのだが
神聖な日枝神社の裏道を通ったおかげで少しだけ鼻づまりはおさまっていた。
注文した蕎麦がコトンとこげ茶色の机に置かれた瞬間ふわっと鰹節の香ばしく優しい香りが漂った。
一口、スープを飲んだ瞬間に全身の細胞が動き出しそうなくらいの感動を感じた。
「おいしい・・・・。」
おもわず口から声が出たのと同時に、涙がすーっと流れた。
日本人に生まれてよかったなあ。
そんなのんきなことを考えながら、つるんと蕎麦を食べ終わった。
食べ物は時に、自分の感情を癒し浄化しながら大きな幸福感を与えてくれる。
本当に美味しいと感じるものを口にした瞬間の口福をわたしは何年経っても忘れることはないだろう。
沢尻エリカの迫真の演技をみながら
涙を流しそうになった私は、そっとレモン味の炭酸水をのどに押し込んだ。
あなたが涙を流しながら感動した一品はどんな料理ですか。