レストランの本質は場所にあるのではなく「素晴らしい食体験を提供すること」
今回は日経MJとの連動企画「#新レストラン考」というお題についてです。
この企画では私は「選者」ということになっているのですが、皆さんの投稿にコメントする前に、まずは自分の考えを少しお伝えしておきたいと思っています。
「うれしくない外食」が減り、市場は縮む
2021年1月の外食の売上は前年比マイナス21パーセントでした。20時までという営業制限は相当なダメージで、各店舗・各社ともに非常に苦しい状況が続いています。
年間の数字を見てみましょう。外食産業の市場規模は2019年には26兆円ありましたが、2020年には前年比84.9パーセント、22兆円にまで落ち込んでいます(データはいずれも日本フードサービス協会より)。
コロナ問題が大きくなっていった昨年4月には月間売上高が前年比60パーセントまで落ち込みましたが、その後Go To Eatキャンペーンの影響などもあり、10月には94パーセントまで回復。年間を通すと、マイナス15パーセントで着地したという次第です。
各地で発動中の緊急事態宣言が解除されれば、これまでの反動で多くの人が飲食店に殺到するでしょう。そしてコロナがある程度落ち着くと、外食市場は一定のところまで回復するに違いありません。ただ果たして、そのまま元のサイズにまで戻るかというと、私は疑問を持っています。
というのも、コロナ禍では「うれしくない外食」というものが実はたくさんあったことが炙り出されました。例えば、「移動の合間をぬって掻きこんだ、ただ胃袋を埋めるだけのランチ」。あるいは「いやいやながら参加してきた飲み会や会食」。また、うれしくないとまではいかなくても、健康や財布にダメージを与えていた「会社帰りの惰性の飲み」。
外食というと楽しいイメージがありますが、26兆円の中には、実はこうした「うれしくない外食」もかなり含まれていたはずです。これらが減ったことは、多くの人にとっては喜ばしいと言えるのではないでしょうか。
外食の本質である「おいしさ」や「楽しさ」を感じられる機会は、これからも間違いなく求められ続けます。またリモートワークにより、ファミリーでの外食機会が増えるなどの上乗せ分もあるでしょう。
しかし、「うれしくない外食」は戻らないでしょうし、何よりリモートワークがある程度定着するのであれば、外食の機会自体が減少するはずです。結果として外食の市場規模は、中期的に20兆円(従来から20%減)程度まで縮小するのではないかと私は予想しています。
70兆円の食市場に攻め込んでいく
こういう話をすると、外食の関係者は途端に暗い表情になります。自分のいる市場に明るい未来が描けないのであれば、それも当然です。けれども、業界に身を置く私自身は、むしろワクワクする部分のほうが多いのです。なぜならば、こんな状況だからこそ新たにトライできることが増えていくと考えているからです。
先程外食の市場規模は26兆円と書きましたが、内食(家庭内の食事)は35兆円、中食(弁当や惣菜など)は10兆円とされています。この3つを合計すれば約70兆円の「食市場」と捉えることができます。今後、従来型の外食市場は縮小するかもしれません。けれども、人々が食事をするということ自体は不変です。すなわち、それは「外食から内食・中食へ」という移動が起きているに過ぎません。
「70兆円の食市場の内訳が変動する」と捉えれば、外食のプレイヤーがすべきことは自ずと見えてきます。すなわち、飲食店という形態だけに固執することなく、内食や中食の領域にむしろ「攻め込んでいく」姿勢が必要です。
コロナ禍で、相当数の飲食店が家庭の食卓を目がけて、テイクアウトやデリバリーに取り組むようになりましたが、その多くはこれまでの飲食店の文脈からは離れていないように見えます。つまり「レストランの料理」をそのまま家庭で食べてもらおうとしているのです。しかし、それでは結果的にクオリティの高くないものになってしまい、「値段の割にはイマイチ」と思われてしまいがちです。
本気で食卓を狙うのであれば、「店で提供している料理を劣化させずにいかに届けるか」という発想からは離れる必要があります。そうではなく、「家庭に最高においしい料理を提供するために、どういった商品開発をすべきか」という視点に切り替えるべきです。良い飲食店には、それができる食材の仕入れルートや、培ってきた調理技術があるはずなのですから。
「料理」「サービス」「場所」の解体と再構築
私はFOODIT TOKYOという「外食×テクノロジー」をテーマとしたカンファレンスの主催者側にいるのですが、数年前に「飲食店の機能の解体と再構築」というテーマで議論をしたことがあります。
飲食店を要素分解してみると、そこには「料理・飲み物」と「接客サービス」、そして「場所」という3つの価値があり、その3つが組み合わさっていることがわかります。しかし、テクノロジーの進化や社会変化により、それらがバラバラになりつつあるのです。
例えば、飲食店のデリバリーというものは、3つの中の料理だけが切り出されて提供されるものです。そこには接客や場所という概念はありません(配達という行為をあくまで外部サービスと捉えれば)。あるいは、レンタルスペースを借りて、そこに出張シェフを呼べば、そこには「疑似飲食店」が出現します。こうしたシーンは、これまでの飲食店でのパーティシーンと直接的に競合します。
もちろん多くの飲食店はこれからも3要素の融合体として存在するでしょう。けれども、これまで当たり前だと思っていた飲食店の「三位一体」の構造は変化しており、分解された3要素をどう組み合わせていくかで、新しいビジネスを組み立てられる可能性があるのです。
私が最近考えたのは、焼肉店の解体と再構築です。焼肉店の中には素晴らしい接客をしたり、スタッフが焼いてくれたりするところもありますが、大きな提供価値は「料理(肉)」と「場所(焼く設備)」でしょう。しかし、実はこの2つの価値は解体できるのではないでしょうか。
昔に比べて、上質な肉がスーパーでもお取り寄せでも入手しやすくなりました。しかし、家で焼肉をしようとすると、ホットプレートやカセットコンロになってしまい、焼肉店の設備と比べてしまうとちょっと味気ないものです。そして翌日まで残る部屋の匂いも大きな問題です。
そんなときに、もしも近所に「持ち込み自由」な、肉を焼く設備がある場所があったらどうでしょう?わかりやすく言えば、室内のバーベキュー場のようなものです。1時間いくらかのお金を払うと、炭火焼きの焼肉テーブルを借りることができ、近所のスーパーで買った肉やお酒を持ち込むことができるような場所です。天候を気にせず、また匂いや後片付けの心配もなく、自由に焼肉を楽しむことができれば、一定のニーズがあるのではないでしょうか。
こうしたアイディアは一例に過ぎません。しかし、先に述べたように飲食店側の人間は「固定された場所で、料理や飲み物を提供する」という価値に必要以上に縛られていると、新しい市場に打って出ることはできないように思います。
そうではなく、自分たちのミッションは「素晴らしい食体験を提供すること」と捉えるならば、これまでの店舗運営という形態以外にも、様々な可能性が広がっていくことでしょう。
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