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Metaの心変わりにファクトチェック業界騒然
1月7日、Meta社の出したリリースが世界中を揺るがせた。同社CEO、マーク・ザッカーバーグ氏のビデオメッセージと、国際問題担当責任者のジョエル・カプラン氏による声明文である(注)。
コンテンツ管理に関して、規制を大幅に緩和する方針が打ち出されている。主なポイントは以下の通り。
1 第三者ファクトチェックプログラムの終了
2 コミュニティノートプログラムの導入
3 ポリシー(利用規約)を改定し、簡素化
4 フィルタリングの対象を悪質なコンテンツに絞り込む
5 政治的な内容の投稿に対するコンテンツモデレーションを緩和
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ファクトチェックに関連する1と2に絞って、Metaのリリース内容を以下に見ていく。また、ファクトチェックの国際ネットワークであるIFCNが、1月9日にザッカーバーグ宛ての公開書簡を出している。こちらも併せて参照する。
第三者ファクトチェックプログラムの終了
▶Metaの主張
Metaは2016年に第三者ファクトチェックプログラムを始めた。これはIFCNに認定されたファクトチェッカーがMetaと提携し、コンテンツのファクトチェックをする仕組み。この提携を打ち切ることが決定された。
この件に関してザッカーバーグ氏は動画で、「ファクトチェッカー達をクビにする/追い出す」we're going to get rid of fact-checkersと発言している。いささか挑発的で、不適切な表現だ。
一方、カプラン氏のリリースには、「⽶国における現在の第三者ファクトチェックプログラムを終了する」We will end the current third party fact checking program in the United States とあり、こちらの方が説明としては正確で、具体的である。
ちなみに日本における大手メディアの報道では、「ファクトチェック廃止」などと誤解を招く表現がされているが、今回打ち切られるのはあくまでも「外部のファクトチェック団体との提携」であることに注意したい。
Metaはプログラム終了の理由として、①ファクトチェッカーの「政治的偏向」と、②それに起因する「過剰な検閲」を挙げている。
Experts, like everyone else, have their own biases and perspectives. This showed up in the choices some made about what to fact check and how. Over time we ended up with too much content being fact checked that people would understand to be legitimate political speech and debate. Our system then attached real consequences in the form of intrusive labels and reduced distribution. A program intended to inform too often became a tool to censor.
専門家も他の⼈たちと同様に、独⾃の偏⾒や視点を持っています。これは、何をどのようにファクトチェックするかという選択に現れました。時間が経つにつれて、まっとうな政治的発⾔や議論と見なされるような内容が、あまりにも多くファクトチェックの対象になってしまいました。その結果が私たちのシステムにおいて、押しつけがましいラベルや配信の削減という形で現れることになりました。情報提供を目的としたプログラムが検閲のツールと化すことが、あまりに頻繁に起こっていたのです。
▶IFCNの反論
これに対して、IFCNは次のように反論している。
①政治的偏向について
ファクトチェック団体がIFCNから認証を受けるためのthe Code of Principlesには、非党派性と公平性に関する5つの基準が盛り込まれている。
この基準を満たさなければIFCNに加盟できず、Metaの第三者プログラムに参加することもできない(基準が厳しくても審査が緩ければ無意味だが)。IFCNによれば、非党派性の基準を満たすよう要求してきたのは、他ならぬMetaであるという。Metaはこの基準を今までずっと賞賛してきたし、わずか1年前にはプログラムの適用範囲を拡充することさえしたと、IFCNはいう。手のひら返しを食らったというわけだ。
②過剰な検閲について
第三者プログラムが「過剰な検閲」になってしまった責任はファクトチェッカーにはないと、IFCNは反論している。
Your comments suggest fact-checkers were responsible for censorship, even though Meta never gave fact-checkers the ability or the authority to remove content or accounts.
あたかもファクトチェッカーのせいで検閲と化してしまったかのように、あなたはおっしゃいますが、Metaがファクトチェッカーに対してコンテンツやアカウントを削除する能力や権限を与えたことは、ただの一度もありませんでした。
前出のMetaの声明文の引用部分をもう一度見てみると、IFCNの言うように、Metaはファクトチェッカーを遠回しに責めるような表現をしている。
Metaは、ファクトチェッカーによる検証対象の選定方法および検証の仕方が政治的に偏向していた結果として、コンテンツが過剰に規制されてしまったと見なしており、これを「検閲」と言っているようだ。ファクトチェッカーが直接的に削除等をおこなっていたという箇所は、声明文にも動画にも見当たらない。
したがって、IFCNの主張の後半部分 (even though Meta never gave fact-checkers the ability or the authority to remove content or accounts.「Metaがファクトチェッカーに対してコンテンツやアカウントを削除する能力や権限を与えたことは、ただの一度もありませんでした。」) は、この点でやや飛躍がある。
コミュニティノートの導入
▶Metaの主張
Metaはファクトチェックプログラムを終了し、1年かけてコミュニティノートプログラムに移行する。コミュニティノートは情報を提供するためのよりよい手段であり、多くの人々がさまざまな視点から書き込むため、偏見が少ないというのがその理由だ。
とはいえ、コミュニティノートが本当に多様な視点を反映する仕組みなのかは、疑問が残る。わざわざコミュニティノートに書き込むユーザーは限られているだろうし、組織的に書き込みをしようと思えば可能である。コミュニティノートはファクトチェックに比べて偏りが少ない、と断言することはできないと思われる。
▶IFCNの反論
コミュニティノートは第三者ファクトチェックプログラムとは相互排他的ではなく、共存可能であると、IFCNは主張する。これはしごく当然のことで、ファクトチェックとコミュニティノートはそれぞれ性質が異なるからだ。ファクトチェックは真偽検証であり、コミュニティノートは情報追加であるから、相互に補完しあうことは十分に可能だ。コミュニティノートがあるからファクトチェックはできないというのはおかしな話で、その逆もまたしかりである。
実際に、Metaがお手本にしているXでも、コミュニティノートのついた投稿をファクトチェックしていたり、ファクトチェック記事にコミュニティノートがついたりしている。それが自由で「健全な」言論空間のあり方だろう。ファクトチェックをコミュニティノートに ”置き換える” とか ”移行する” といったMeta側の主張に、私は強い違和感を覚える。
なお、IFCNによれば、コミュニティノートの多くは表示されないままだという。正確性に難があるというよりも、政治的な理由によるものらしい。それが本当だとしたら、多くのユーザーが多様な視点からコミュニティノートを書き込んでも、その内容が正確であったとしても、特定の思想信条を述べたものははじかれてしまう。それは多様性ではなく、Metaの言う「表現の自由」でもない。
問題点
今回のプログラム打ち切りから導き出される論点を、以下にいくつか挙げてみる。
【巨大DPFの公共性と社会的責務】
Metaはプログラムを通じてファクトチェック業界に投資してきたが、この投資を打ち切るという経営判断を下した。また、トランプ氏の大統領就任を視野に入れた政治的判断だという見方もある。Metaを単なる民間の一営利企業と見なすなら、状況の変化に応じて方針転換するのは当然のことのように思える。
その一方で、Metaの提供するサービスは、今や社会的インフラとして我々の生活に欠かせない公共性を有している。そういう観点から、Metaに対して社会的責務を求める声があがっている。要するに、コンテンツ規制の緩和はプラットフォーマーとしての責任放棄だというのだ。たしかに、Metaほどの巨大プラットフォーム事業者を単なる一企業として扱うのは無理がある。
この論点を巡る議論は以前から繰り返されてきたが、Metaの件を機に再燃し、米国内だけでなく他国にも広がりつつある。Metaのような巨大DPFの存在をどのようにとらえるかは、経済的な側面だけでなく社会的・政治的な側面にも関わってくるので、判断がとても難しい。そうこうしているうちに彼らはますます巨大化して、手に負えない“怪物”になるかもしれない(そうなる前に規制を、というのが、いま日本でSNS規制を推進する人たちの主張なのだが)。
【言論の自由と資金の独立性】
なにはともあれMetaをはじめとする巨大DPFが私企業であることに変わりはなく、基本的には自分たちの利益を最優先にして企業活動を行う。第三者ファクトチェックプログラムへの資金提供もその一環である。なので、利益を損なうと判断したら資金を引き揚げる。つまり、ファクトチェッカーはDPFにいつ切られてもおかしくはないということ。DPFから資金援助を受けている団体は、そんなことは百も承知だろう。
ただ、Metaの方針転換はファクトチェック団体にとって、まさに寝耳に水だった。IFCNがMetaの決定を知らされたのは、リリースが出る45分前だったという。まともな企業のすることではない。すでに2025年の契約を結んだばかりの団体もあったらしい。
急な方針転換に米国のファクトチェック業界は騒然としているようだが、次期大統領がトランプ氏だと決まった時点で、Metaの路線変更はある程度予想がついたはずだ。ちなみにプログラムの打ち切りは今年3月、パートナーへの支払いは9月までとされている。
出資者のDPFの意向次第でファクトチェック団体の存続が危うくなるような、依存的で不安定な状態で、「ジャーナリスト」として「民主主義の発展に資するため」に「真実の追求」ができるのだろうか。そして、(今回の公開書簡は例外として)彼らのファクトチェックの対象からDPFは除外されているのだろうが、それは中立公正なのかと疑問に思う。
注
2018年から米Metaで国際問題担当責任者を務めてきたニック・クレッグ氏が、1月2日に退任を発表。後任のジョエル・カプラン氏はジョージ・W・ブッシュ政権時代に副首席補佐官を務めた人物で、共和党とのつながりが強いとされている。
追記
初期段階の報道では、ファクトチェックの件ばかりに焦点が当てられていた。しかし、ファクトチェックプログラムの打ち切りは今のところ米国限定であるし、影響力の大きさでいったらポリシー改定の方が上ではないかという気がする。
こちらはファクトチェックとは別の話で、全世界的に適用される。かなり大幅な改定(削除)がなされたようなので、今まで押さえていた地獄の蓋が一気に開いてしまうかも。そうなると、ファクトチェックではなおさら追いつかない。
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