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2人のおじいさん

伝道師

前の日に早く眠りについたため、早朝に目が覚めた。
まだ道後温泉の開館前の時間だったため、朝風呂をキメてこようと本館へ行った。

昨夜は相部屋の人に教えてもらった別館の方をお勧めされていたので、本館はこれが初めてだった。
早朝だというのに結構な行列。とはいえ、夕方とかに比べると全然マシだが。

開館の時間になると、開館を知らせる太鼓の音が鳴った。
「ドォン。ドォン。ドォン。」
夜明け前、古い日本様式の建物の道後温泉にこの上ないくらいの雰囲気を出す、最高にぴったりなお知らせの音だと思った。

朝風呂をキメてゲストハウスに戻ると、前日色々教えてくれた同じ部屋のお客さんが起きていた。挨拶をして前日のお礼を述べた。
このお客さんは60代くらいの男性で、自称コーヒーの伝道師と名乗った。

他のゲストハウスなどでもコーヒーの伝道師と呼ばれているらしい。
コーヒー好きだというと淹れてくれることになった。
瓶を差し出され、飲んだ後にいくらでもいいからお金を入れてくれという事だった。

コーヒーで頂いたお金はコーヒーにしか使わないと決めているらしい。
豆も何種類か持っていて、この時はまだ未開封のものを開けてくれた。
手挽きのミルで豆を挽き、いい香りが漂う。

コーヒーはとても美味しく、お礼の金額を瓶に入れた。
そして、コーヒーを飲みながら伝道師の旅の話をたくさん聞いた。
色んな国に行っている人で、この方の旅の話はとても面白かった。

一通り旅の話を聞き、国内のオススメの場所など教えてもらった頃、そろそろチェックアウトの時間が近付いてきたので荷物をまとめてゲストハウスを出た。

伝道師は連泊なのでここで別れた。
お元気で、またどこかで。

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海を走る

昼前から伊丹十三記念館を貸し切り状態で楽しみ、昼食をとるべく、オススメされた鍋焼きうどん屋へ。しかし、この日はお休みでやっておらず。
他にもよさげな店を探したりしたが、いまいちピンとこず。

結局お昼はとらないまま古本屋さんに行ったりした。
そして、愛媛にも私設図書館があるという事でそちらに向かった。
ここでも色んなお話を聞かせて頂き、空腹の旅人にお菓子やコーヒーを出してくれた。

もう至れり尽くせりでした。本当にありがとうございました。

そこから、これまたオススメされた下灘駅で夕日を見るためにまた電車に飛び乗った。下灘駅へ向かうまで間ほとんど電車の中から海を眺めていた。
海の水面をキラキラとした輝きが次第にオレンジ色に染まっていく。

下灘駅に着くと、平日だというのにも関わらずかなり多くの人がいた。
駅のベンチに順番に座って写真を撮ったりしている。
一瞬げんなりしたが、来てしまったから仕方がない。

しかし、実際に沈みゆく夕陽を見ていると周りの人間なんてどうでもよくなるくらいの美しさに感動し、ゼリーのようなオレンジの球体に真剣に見入ってしまった。

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陽が沈むと次第に人が散っていき、残ったのはわずかとなった。
1時間に1本くらいしかない海を走る電車に揺られながら、九州へ船で渡るために港へ。

九州へ渡る船の運賃は3000円と少しお高めだった。
ゲストハウスでの1泊分くらい。移動するだけにこの値段はもったいない!ということで、深夜便に乗る事にした。

深夜便だけ24時過ぎに出港で、朝の3時くらいに別府に着くのだが、5時半まで船内で休憩できるということだった。これなら宿泊費と移動費を兼ねて3000円とお得な感じがする。

その分待ち時間が長いので、広い待合スペースでけん玉をしながら時間をつぶしていた。
途中、自分より少し年上くらいかとみえる男性3人組に声をかけられた。
その人達は夜釣りをしにきたそうで、たまたま休憩がてら温かい飲み物を自販機に買いに来ていた。

その人たちが夜釣りに戻ってしまうと、待合スペースには再び僕だけとなった。時折、チケットを買いに来るトラックの運転手さんとかが来るくらいで、チケットを買うとすぐに彼らは車へ戻っていった。

がばい出会い

しばらくけん玉に夢中になっていると後ろからこんばんはと声をかけられた。
振り返ると、初老の男性が立っていた。このご時世にマスクもせず、あまりきれいともいえない格好で、たばこの臭いを漂わせていた。

挨拶を返すと「これチケットどうやって買うん?」と訊かれたので教えた。
確かに、券売機で買うだけといったシンプルなものではなく、紙に色々記入しなければならなかった。その男性は車で船に乗るので、なおさら記入事項があった。

全て記入をして、買うまでの手続きを案内すると「兄ちゃん旅か?」と訊かれた。
「まぁ、旅と言えばそうですね。ちょっと物件を探しながら」
「物件?移住か?」
「移住も兼ねてですけど、やりたいことがあって」
と私設図書館をやりたいことや、どういう物件を探しているかなどを説明した。

説明し終えると男性が
「それならうちでやればええ。地下があるけど、今使ってないからそこ貸してやるぞ」
「地下?お父さんの家どこですか」
「佐賀県。吉野ケ里遺跡の近くだ」
「そうですか。ちょうど福岡と長崎には行こうと思っていたので、通り道ですね。そっちの方行った時見せてもらってもいいですか?」
「おう、いつでも遊びに来い」

といって連絡先を交換した。
男性は臼杵行きで、僕は別府行きの船。臼杵行きがすぐに出そうだったので、ここでこの男性とは別れた。
いずれ別府行きの船も乗船時間となった。

船に乗り、自分の心地良い場所を確保した。
さっきのおじいちゃんは何だったんだろうと考えながら眠りについた。

つづく

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