物語を作るきっかけは「バグ」だった。
小学校4年生の頃、父にようやくDS Liteを買ってもらった。DSと一緒に買ってもらったゲームソフトは「ポケットモンスター ダイヤモンド」。初めてやったポケモンが「リーフグリーン」で、タイトル画面がお馴染みのBGMで熱く盛り上げるのに対し、ダイヤモンドは神秘的でダークなタイトル画面で心を掴まれた。
最初に選んだポケモンはナエトル、リーフグリーンの時もフシギダネで、最終進化も似たようなデザインだったので、初めてポケモンの世界へ入ることの出来た小1の夏をフラッシュバックさせながら、新しい場所シンオウ地方へと冒険に出た。
初めてポケモンをやった時に比べると随分システムも把握できており、特に滞りなく殿堂入りまで進められた記憶がある(リーフグリーンで苦戦していた記憶が強すぎたのもある)。
殿堂入り後、ギラティナやヒードランも捕まえ、これ以上やることが無いと思ったある時、クラスメイトからこんな質問をされた。
「ダークライ捕まえた?」
そんなポケモンはコロコロコミックスに載っていないし聞いたこともない。
真剣に問うてきたクラスメイトの表情を見て冗談ではないと察し、「いや、まだかな〜…」と、まるで知っているような素振りで返答した。
家に帰るまで「ダークライ」という名前を頭の中で反芻した。急いで父からパソコンを借り、Yahoo!キッズで「ダークライ」と調べた。
本当に実在していた。しかも入手方法が明らかにおかしい。
「チャンピオンリーグに行き、四天王の一人目『リョウ』の部屋で、入り口に向かってなみのりをします」
この文章を理解するのに時間を要したが、ものは試しだと思い、なみのりを使った。
主人公は博士の言葉を無視し、モンスターボールを空へ掲げ、丸々と太ったビーダルが画面を横切る。ビーダルに乗った主人公は、部屋の外の真っ暗な世界へ突入する。
全身に鳥肌が立ち、ものすごくいけない事をしているような感覚になった。しかしもう後には引けない?
そこから一度も使ったことのなかった万歩計で歩数を測り、たんけんセットを使ってすぐに出る。地上へ上がると、マップが乱れたエリアに立っており、あの世とこの世の境目のような不気味さを肌で感じながら先へ進んだ。先に進んだエリアには、赤と黒の見たことの無いポケモンが佇んでした。彼は無言のまま戦闘へ部隊を移した。攻撃を仕掛ける前にすかさずマスターボールを投げすぐに捕獲。即ミオシティへ戻った。
今までお利口さんにプレイしていたポケモンに、こんな裏世界があったなんて思わず、晩ご飯を食べていてもお風呂に入っていても寝ていても興奮が覚め止まず、スリープモードのDSを開いてはダークライを眺めて閉じ、またこっそり開いてダークライを眺める。
もしかしたら、他にも不思議な世界があるかもしれない。「バグ」は僕の妄想世界の容量を格段に上げた。
そこから僕の黒歴史でもあるが、ポケモンのオリジナルのバグの世界をあたかも実在するように友達に話した。
「レベル100のワンリキーが出てきた」とか、
「白いディアルガを捕まえた」とか、
「ギラティナに話しかける前に『いあいぎり』をすると空間が歪んで違う世界に入って、そこから自転車でしか進めない細い道があって、そこを進んでどんどん下に向かうとヒカリ(女の子主人公)の首を持ったナナカマド博士がいて『こいつは失敗作だった。君はどうだ?』って話しかけてきて、ナナカマド博士と勝負したんだよね。バグポケモンばっかで全然勝てなかった」とかとか。
作り話にすればいいものの、本当にあったと言い切ってしまい、嘘吐き呼ばわりされたこともあった(まあ実際真っ赤な嘘だし)。
でも今思えば、自分が「こうだったら面白いな」という世界をみんなと共有したかったのかもしれない。
僕は今、ボイスドラマを創作している。台本も1から作っている。
でもよく考えれば、物語を作ることは「嘘をつくこと」なのだ。
「嘘をつくこと」は、バレてはいけない。
いかに巧妙に事実のように見せるか。僕の場合はそれが、どれだけ楽しい「嘘」をつけるか、という違いなだけ。
あの時、ダークライと遭遇する経緯がなければ、こんなにも物語を妄想することはなかったのかもしれない。
僕の脳内の一部が未だにバグで乱れているから、新しいものを考えられる。
「バグ」という余白
僕はまた、新しく楽しい「嘘」を吐く