読書の記録『自閉症は津軽弁を話さない』
僕の妻が、
青森県の津軽っていうところで、
乳幼児健診にかかわっているんですけど、
妻が言うには、
母親がバリバリの津軽弁喋ってても、
自閉症の子どもは、
まったく津軽弁を話さないって
言うんですよ。
そんな印象だけで、
自閉症児=津軽弁を話さないって
決めつけてしまったら、逆に
津軽弁を話さない=自閉症っていう、
決めつけになりかねないから、
安易にそういうことを
言ってはいけませんよ。
と僕は返したんですけどね。
僕の妻が、
だって本当にそうなんですもの。
私以外の健診にかかわってる人たちも
みんな知ってる
暗黙の了解みたいになってるよ。
それにしても、
印象だけで断言してしまうのは
いただけないから、
ちゃんと調べてみましょう。
ということで、
自閉症と方言に関する調査を始めた
松本敏治さんによる
自閉スペクトラム症のことばの謎を
読み解く本です。
決めつけはいけないよっていうことが
きっかけで、
調べはじめたことを書籍にしたら、
タイトルは、
『自閉症は津軽弁を話さない』に
なってしまうのか、と、
まずそれに驚きましたが、
そんなことは些細なことで、
「自閉症は津軽弁を話さない」ことを
立証するために、
1から、いや、0から調査を始めて、
一つ結果が出たら、その結果をもとに
さらに調査を進めるの繰り返し。
地道な作業を10年続けてこられた
過程と結果がこの本に収録されています。
研究者、学者というのは、
かくも地道な作業を繰り返すものなのか、
ということに、
腐ったような表現になってしまいますが、
いたく感激いたしました。
面白かったのが、
①彼女は海が好きだ。
②彼女は海が好きだった。
ある講演で、
この二つの文章について、
今も彼と彼女は付き合っているかを
聞いたところ、
多くの人は①は現在も付き合っていて、
②は付き合っていないと答えたのだが、
そのとき一緒に講演をお願いしていた
自閉スペクトラム症の方からは、
「私には別の可能性も考えられるから、
質問には答えられない」という
意見があったそうです。
いわく、
前は海が好きだったけど、
嫌いになったかもしれないし、
山が好きになったのかもしれない。
とのことです。
確かに二つの文章には、
彼と彼女についての詳しい情報はないし、
ことば「だけ」の分析としては、
その解釈を否定はできませんが、
多くの場合、私たちは、
ことば「そのもの」ではなく、
そのことばが使われる、
あるいはそのことばを発した人が
考えているであろう認識を読み込む。
ということが書かれている箇所のことを
とても興味深く読みまして、
ここで自分なりの感想を書きたかったけど、
すごくデリケートな問題なので、
やはり、素人が余計な感想を
書いてはいけない気がするのでやめた。
緻密に地道に丁寧に、
伊能忠敬が日本地図を作ったときのように
確かなものを求め続ける研究者の
矜持に触れられる一冊です。