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読書の記録 カズオ・イシグロ『クララとお日さま』訳=土屋政雄

 2017年、ノーベル文学賞を受賞した後、はじめて出版されたカズオ・イシグロの8作目の長編小説です。英語で読んでいないから、通訳の土屋政雄さんの翻訳の話になると思うんですが、文体が私はすごく好きです。主人公のクララの繊細さ、優しさがとても上手く描写されています。クララはどんな時も友人のジョジーのことを思っていて、激しい感情を面に出すことがありません。いつも冷静に物事を、事実を観察している様は、現実の子どもたちも、意外とこうやって大人を観察しているんじゃないのかな?なんて思ったりします。それは、私が偉い人の傲慢や思い込み、似非正義感などを見通せてしまうのとも似ているかもしれず、その点、私はクララに共感も覚えました。

 しかし、中盤、私はクララと「お日様」の関係性に疑いを持ってしまいました。こんな私がクララに共感を覚えたなどと、本当は言ってはならないのです。クララの「お日様」に対する思い、信じる力を少しでも虚構だと思ってしまった自分は、実に汚い世界を生きているのだと思う。自分の汚さを恥じると共に、読み終えた今、その汚さが少なからず浄化されたような気分でおります。

 1回読んで終わりという作品ではなく、2回3回読むことで味わいの変わるであろう、素晴らしい小説です。radikoのタイムフリー機能で何回も聴き直してもらえるようになったラジオにもヒントになりそうな気がします。こういう読書が好きやねん。

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