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エッセイ『正義感振り翳し妖怪』
令和4年9月10日
京都府か京都市か忘れたが、マナーの悪い自転車運転について「それ危ないで」っていう啓発運動を展開している。スマホを見ながら運転することとか、酔っ払い運転とか、そういうやつをそれぞれ妖怪の仕業に見立てて注意を呼びかけている。確か10種類くらい妖怪がいたと思う。つまり、「スマホ見ながら運転する妖怪」とか「酔っ払い運転妖怪」とか、そういうこと。どの妖怪もいなくなってほしいのはもちろんなんやが、あたしが一番消えてほしいと思ってるのが「逆走妖怪」。車道を逆走する自転車だ。なぜかといえば、あれがいちばん悪意がないから。スマホ見ながら運転してる人は、スマホ見ながら運転することが危ないとわかってやってる。酔っ払い運転も、最近は「ほんまはやったらあかんこと」くらいの認識はあるはず。ほかの妖怪はどんなんか忘れたんやが、どれも「やったらあかんこと」とわかりながらやってるやつばっかりやった。逆走以外は。逆走は、あれだけは、ほんまに悪いと思ってやってない。やったらあかんと思ってやってないから、例えばスマホ見ながら運転してる人に「危ないよ」と伝えたら「ごめんなさい」となるものも逆走してる人に「危ないよ」と伝えても「ごめんなさい」とはならない。悪いと思ってないことで注意されて、むしろ逆ギレしてくるかもしれない。だから今回、京都府か京都市か忘れたんやが、しっかり逆走を妖怪指定してくれたのがあたしは嬉しい。少しでも、あれがあかんことなんやということをわかってくれる人が増えてほしい。
しかし、そんなことを願ういっぽうで、自分が正しければその正しさを武器にして攻めまくるという姿勢もどないやねんと思う。というのも。これだけ逆走嫌いのあたしが、まさに悪意なく逆走をしてしまっていたことがありまして。車道じゃなくて、歩道に自転車専用道路が設置されてるところがありますよね。あの歩道内自転車専用道路にて、あたしはこないだ、意図せず逆走してしまっていたんやが、そこは歩道でもあるから、あたしはゆっくり自転車を漕いでたわけです。自転車専用道路とはいえ、そこは歩道ですからスピードは出したら危ないです。で、それでゆっくり意図せず逆走してたっていうのは、後から気づいたことなんやが、なんでそんなことに気づいたかっていうと、前から猛スピードの自転車があたしに追突せんばかりの勢いでぐおおおおおおおおって迫ってきたんです。その時は「なんやこいつ!やばいのきたけどこんなイカレタやつのためにこっちが避けるんも癪やしこのままおったろ」と相変わらず猛スピードの自転車の軌道をのろのろ動いてたら、いよいよ2m手前くらいまできてもスピード全然緩めずにこっちをぐっと睨んどる。若い兄ちゃん。別にヤンキーとかやなさそうな感じ。何か信念をもっとる感じ。ぐおおおおおおおおって近づいてきたから身の危険を感じてさすがに少し避けたら向こうもブレーキかけてぶつかるギリギリのとこで二人はすれ違ったんやが、あたしは何か、この兄ちゃんになんぼなんでも一言物申したくなり、すれ違いざまに「いやいや、エグいやろ」と捨て台詞を吐いた。それくらいしか出てこんかった。
あの混ざりっ気のない信念をもった眼。あれは自分のほうが必ず間違いなく絶対正しいという正義の眼をしてた。悪いのはおまえのほう。こっちは純度100%で正しいから、避けるんはおまえのほうやしオレはスピードなんて落とさへんよっていう眼をしてた。あの信念は、あの正義感は何やったんやろうか、と後々調べてみたら、あたしが逆走してしまってたんやった。大変失礼いたしました。ほんまに申し訳ないことでした。しかし、しかしやね。自転車専用道路とはいえ、歩道のなかに設定されとるもんやし歩行者もいるわけでして、そんなにスピード出すんもどうかと思うわけです。何回も書きますが、逆走してたんはあたしですから、そこは完全にこっちが悪い。そこはほんまに申し訳ない。それでもしかし、正しさを振り翳す猛スピードの君が、未来ある若者の君が、果たしてそのまま突き進んでしまってもいいのかなとは思ったんです。悪いのはおまえ、オレはちゃんと指定された道を走っているだけ、おまえが悪いおまえが悪いおまえが悪いおまえが悪い。本当にそれでいいんかなー。って少しばかり気分が晴れないまま過ごしているんやが、どちらかというと、あたしも普段は猛スピードの兄ちゃんみたいに正義を振り翳しがちなわけで、ところがあたしは、もうあの兄ちゃんみたいに猛スピードでチャージする気力も体力もなく、ただただ「最近はマナーの悪いやつが多いですな〜」とSNSで苦言を呈するのが関の山な日常を過ごしているものですから、ああ、結局のところ、あたしはあの兄ちゃんの若さに嫉妬していて、その感情を捻じ曲げちゃってるだけなんやな〜と、それに気づいてまたまた落ち込み、その心持ちをこうして投稿している次第でございます。
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