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エッセイ『おっさんの無視』

 五月二十四日から体重を計りはじめて明日でちょうど四ヶ月。本日、体重を計測したところ、四ヶ月前より実に7キロ痩せていた。あと7キロ痩せたら十五年前に戻れる。
 逆に言えば、十五年で14キロ太ったことになる。ついでに言うなら十五年前は、その十五年前より14キロ太っていたはずなので、僕は三十年で28キロ太ったことになる。この計算でいくと、四十五年前よりも42キロ太ったことになるのではないか、と思ったが四十五年前、まだ僕は生まれていなかった。
 しかし、このまま何も手を打っていなければ、十五年後には今よりさらに14キロ太っていたとしても不思議ではないし、この負の流れはどこかで食い止めなければならないのは確実であり、それが今だったということなのである。

 今日、五月二十四日の計測初め以来、最も小さい数字を見たとき、僕は心まで軽くなった気がした。実に気分がよかった。少しくらいの嫌なことは華麗にスルーできる気がしていたんだが、さっき同じマンション内ですれ違ったおっさんに「こんにちは」と挨拶したのにおもいっきり無視されたこと程度の小さなことにすこぶる腹を立てている。人ってあんなに人のことを無視できるものなんだな。すれ違い様に耳を確認してみたが、ワイヤレスイヤホンは刺さっていなかったし、僕の挨拶は聞こえていたはずで、そのうえで無視をしていたわけだ。僕より一回りほど年上のおっさんだっただろうか。十五年前は14キロほど痩せていたに違いない。その頃は道ゆく隣人にもちゃんと挨拶していたのかもしれない。
 ということは、僕も今から十数年経てば、あのおっさんのように隣人の挨拶を余裕で無視できるミスター厚顔無恥になる可能性を秘めているのかもしれない。嫌だ。絶対に嫌だ。計量後のあの清々しさを台無しにする、そんなおっさんには絶対なりたくない。そう決意できたんだからおっさんに無視されてよかったかもしれない。

蠱惑暇(こわくいとま)

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