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短編小説『ネットリテラシーチェック』

新型コロナウイルスのワクチン接種1回目を終えました。私は病院で接種したのですが、被接種者が順番にベルトコンベアに乗せられ、流れ作業のように予診票チェック、本人確認、問診などを経てワクチンを接種しました。途中、「私はP社のワクチンを接種できるつもりで来たのにどうして今日はM社なのだ」とものすごい剣幕で怒鳴り散らしている女の人がいたのでM原J子みたいだと思ってしまいました。恥を知らないといけません。ワクチン注射はあっという間に終わりました。出血を覚悟していたので拍子抜けです。被接種者全員が打たれた腕と逆の手で消毒綿を押さえていましたが、私は打たれた右腕を右手で押さえ、空いた利き手の左手で2回目の予診票などをカバンの中に仕舞い込みました。蝶々結びにさえ手こずる割に、こういうことは意外と器用にできるのです。

ワクチンを打ったあと、急激に症状が変化した場合のために15分、その場で待機するわけですが、私はこの時点で尋常じゃない汗をかいており、不織布のマスクはびちゃびちゃに濡れてしまいました。こんな時に限って手ぬぐいを持ってこなかったので、流れるのを放っておくと、危うく床に垂れそうになりました。やむをえず、室内の冷気対策で持ってきていたカーディガンを手ぬぐいの代わりにし、額や耳の裏、腋の下にいたるまで、滴る汗を拭き取りました。1席空けた隣で待機する女性が私の異常な汗に気付き、露骨に不快な表情を見せます。それもそのはずで、私の汗は小便の臭いがしていました。汗を拭い取ったカーディガンは、残尿が沁み込んだボクサーパンツのような異臭を放っています。このまま院内待機していては、私は自尊心を破壊されてしまいかねないと思い、5分ほど早く退院しました。

退院する前にトイレへ行きました。体全体から小便のような臭いのする汗を流しているのに、そのうえ小便が出るのですから不思議です。小便は実に濃いオレンジ色をしており、色だけならバ◯リース以上ポ◯ジュース未満といった具合でした。これも副反応なのでしょうか。

病院へはバスで来ていたのですが、さすがにこの小便臭を放つ体で公共の乗り物に乗るわけにはいきませんから、歩いて帰ることにしました。熊野神社を西へ出ると鴨川です。汗をかきかき、歩いておりますと、烏や鳶がやたら低空飛行しています。通ってきた道のほうがぽっぽぽっぽうるさいので振り向いてみると、私の後ろに十五羽ほどの鳩が並んで歩いておりました。疲れて俯きがちに歩いているのは私だけで、鳩どもは自信満々、胸を張って歩いていました。やがて鳥たちのほかにも、犬や猫、虫の類に至るまで群がってき、歩道を歩くには支障が出るくらいになってきたので、私は鴨川沿いを歩くことにしました。

ワクチンの副反応として、稀に動物を引き寄せることがあると、ネットの記事で読んではいましたが、まさか自分がそうなるとは思わず、なんの対策もしておりませんでした。川沿いを南へ下がっていきますと、ヌートリアやオオサンショウウオのほか、名前をよく知らない魚やカモたちが等間隔で現れます。疲れ果てた私は、橋の近くの柳の木の下に寝転びました。ワクチンは右腕に打たれたので、左腕を枕にし、草叢に寝転ぶと、動物たちが群がります。この密な状態は波物語みたいじゃないかと思いながら私はうとうとと眠ってしまいました。

小一時間ほど眠ったのでしょうか。起き上がると動物たちは消えていました。炎天下、太陽光を浴びたためか、汗は乾ききり、小便臭も無くなっていました。おそらくあの臭いが動物たちを呼び寄せていたのでしょう。



いかがでしょうか。
このような与太話でさえ、さも真実であるかのように拡散されてしまうのがインターネットの世界です。私が確認したもののなかには、「現代の涅槃」というタイトルが付けられ、私が教祖と崇められておりました。世の中のあらゆる嘘が、都合のいい解釈により、真実に仕立てあげられるのです。くれぐれもご注意ください。私はといえば、さほど副反応は無かったのですが、ネットに書いてあった通り、接種した腕のところに10円玉がくっつくようになってしまって困りました。現金主義だったのですが、ワクチン接種を機に電子マネーを使うことにしましたね。小銭さえ持っていなければ、副反応なんてあって無いものだと思います。ご参考までに。

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