フィールズ・グッド・マン
令和3年4月13日の日記
小さいことを気にすると思われようが、腹の立つものは仕方がない。去年から緒方は京都の某ミニシアターの会員になっている。新型コロナウイルスの影響で映画館が打撃を受けているとのことだったので、職場からすぐ近くにあるこの映画館で定期的に映画を観ることが何かしらの支援になるのであれば、と思ったわけだ。ついでに言うと、コロナ禍のおかげで客が少ないため、鑑賞がとても快適でもある。今日なんて客は3人しかいなかった。去年は6月から年末まで、半年くらいの間、週1で映画を観た。今年は会員を更新しようかどうか、悩んでいたのだが、同じ職場で働く野村さんが「会員を更新する際に1人紹介したら、1枚招待券が余分にもらえる」と教えてくれた。野村さんは緒方がその映画館の会員になっていることを知っていたので、「更新するなら、私を紹介してくれたら招待券もらえるよ」と言ってくれ、それならせっかくだし、会員になろうか、と先日、手続きを済ませたのであった。
1枚招待券を余分に手に入れることになるから、緒方は野村さんにその分をくれてやるつもりだったのが、「それは別にいいよ」とのこと。「そうなん?僕もあげるつもりしてたんやけど」と言うと「それなら阿部さんにあげたら?」と言う。しかし、私は常日頃から阿部さんが、この映画館のことを「よくない」と言っているのを知っており、気分悪く思っていたので、「せやけど阿部さんはここの映画館、嫌いやんか」と返したら、緒方は大変耳を疑ったのだが、野村さんがすかさず、「そらそうやわ。だってよくないもん」と言うのだ。緒方にわざわざ招待させておいて、確かに紹介をする分には緒方になんら実害はないとはいえ、聞いてもいないのに「よくない」と言えてしまうその野村さんの神経が緒方には本当によくわからないのであった。
野村さんがいろんな映画館で映画を観ていることを緒方は知っている。映画鑑賞が趣味で、各映画館の特色も把握しており、そのなかで比べれば、緒方が会員になっている「京極シネマ」は、おそらく見劣りがするのだろう。阿部さんも同じようなことを言っていた。しかし、そうであったとして、好きで観に行ってる緒方に対して「あそこはよくない」と言う必要がどこにあるのだろう。
そこには、「あなたはあの程度の映画館で映画を観て喜んでいるみたいですけど、私が会員になるために招待してもらったのは、あの程度の映画館で映画を観ることを是としているのではなく、あの程度の映画館だけど、あそこでしか上映されない映画もあるから、やむをえず会員になるのであって、そうでなければ、あの程度の映画館で好き好んで映画は見ないから、あの程度の映画館で満足してるあなたと私を一緒にしないでくださいね」という、緒方にはかすんで見えないくらい高いところにご鎮座されているプライドを垣間見たのであった。
そのような、いわくつきの京極シネマの会員を更新し、緒方は今日、映画を見た。「FEELS GOOD MAN」という映画だ。マット・フューリーという作家の漫画の主人公、カエルのぺぺは、作者の意図とは別のところで、いつの間にやら、オルタナ右翼や人種差別主義のシンボルとして一人歩きすることになった。ネットの世界でヘイトシンボルとして拡散し続けた結果、2016年のアメリカ大統領選挙でトランプが勝利する要因になったともいわれている。なぜにカエルのペペがヘイトシンボルになっていったのか、作者のマット・フューリーや関係者の証言をもとに探っていくドキュメンタリー映画だ。
印象的だったのが、オカルト信仰者で学者のじじいが、「覆水盆に返らず、だが、見方を変えることはできる」と言ったところだ。一人歩きしてしまったペペのイメージを覆すのは容易なことではないが、新しいイメージを植え付けることはできるんじゃないか?と語ったうえで、実際にペペが香港の民主化運動の象徴となった場面を映し出していた。不当にヘイトのイメージを背負わされたペペの姿が、不当に自由を抑圧された香港を象徴することになったのは、言い方は悪いが面白いし、香港の人たちのセンスは素晴らしいな、と緒方は思った。
些細な出来事がきっかけで、イメージなんて簡単に一人歩きしてしまうものだ。そうであるならば、心ないひとことをいつまでも根に持たず、「FEELS GOOD MAN」でいなければいけないな、と思いつつ、どーーーーしても許せなかったため、緒方は一連の出来事を日記としてnoteにアップすることで封印することにした。
本当は、その場で野村さん本人に「あなたの言っていることは失礼極まりないですよ」と言えたらそれがいちばんよかったのだが、世の中いつも最適解を選ぶことはできないのである。
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