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短編小説『グルーヴってやつだった』

緊急事態宣言下においては、家庭内感染のリスクを軽減するため、性交することが禁じられているため、ラブホテルは営業を止めており、自宅での性交にも自粛要請が出ています。1ヶ月程度なら我慢できた人たちも、2ヶ月3ヶ月となると話が変わってきます。いよいよ、あと3日で宣言解除かと、喜び勇んで先走りの液を迸らせてしまっているような輩の中には、さらに1ヶ月延長と決まった折に風呂で雄叫びをあげながら1人でいたしていた者がいたとかいないとか。

しかし、あまりにも締め付けが厳しくなると人は規則から逸脱しがちになるものでして、それは喫煙所が撤去された途端に歩き煙草が増えたことからも明らかであります。近頃は日が暮れますと、四条烏丸から私の自宅のある壬生のあたりまでチャリンコを走らせていますと、路上セックスをしているカップルを見かけることが増えました。噂によると、取り締まろうとする警官には賄賂を握らせているとかいないとか。

賄賂を握らされた警官は、警官仲間で情報を共有し、四条堀川東南角のカップルは2万円だった、高辻の交差点は4万だったと盛り上がり、路上セックスマップを作成し、ローテーションで取り締まりに回っては賄賂を受け取るということを繰り返していたところ、ある日、マップには掲載されていない麩屋町御池付近でチュパチュパしている男女を見つけ、おうおう、お盛んなことやないかい、しばらく見させてもろてから、ええとこで取り締まったろやないかいと眺めていると、それから3分もしないうちに終わってしまったため、楽しみにしていた分、無性に腹が立ったため、「おいおいおいおい!こんなとこで何しとんねん!」と詰問しようとしたところ、男のほうが本部長だったため、「お勤めご苦労様であります!」と叫んで消えたとか消えなかったとか。

マップ作成者によると、だいたいカップルがやる場所は決まっており、町内会では「谷本さんとこはあの路地の真ん中」「横山さんとこは中央分離帯の端っこ」などと暗黙の了解の下で島が決まっていくわけなのですが、そんなこととはつゆ知らず、流れ者のカップルが、町内の「顔」ともいえる吉武さんがいつも女を連れている商店街の入口で、事に及んでしまったものですから、町内の若い衆が、

「どこのもんか知らんけど根性あるなー」
「吉武さんのこと知らんのはもぐりと違うけ」
「世間知らずは怖いなー」と二人を囲みながら大声で喚き散らし、それはまるで常連どもが無類のチームワークで一見に肩身の狭い思いをさせる銭湯のようでありました。実際、この町の「五色湯」では、誰がどのシャワーを使うかが全て決まっているようです。

うるさい若い衆をものともせず行為に勤む二人を軸にして、若い衆は時計回りに回転しながら、頻りにやかっているのですが、次第に彼らのやかる声は、真ん中の二人の交合のリズムとシンクロしだしまして、全員が快楽を共有することとなり、やかる声はやがてメロディーに昇華しまして、楽しい雰囲気に釣られた通行人たちも、同じメロディーを口ずさみ、昼も開かないシャッター商店街が活気を帯びてきましたところ、吉武さんがスキップしながら女と一緒にやってきました。女は主旋律を歌わず、3度上でハモっていました。

「こらあ、気分がええさかいに今日はセックスはやめや!みえこ、絵の具持ってこい!久しぶりに絵ぇ描きたなってきた。シャッターに龍でも描いたろやないか!」
したい気持ちでいたみえこは不服であったが、かつて一世を風靡した伝説の日本画家、吉武夢之助のライブドローイングが見られるとあっては話は別です。急いで絵の具やパレットやなんやらかんやら一式揃えて帰ってくるやいなや、吉武は取り憑かれたように筆を走らせ、一気呵成にシャッターへ挑んでいきました。その姿は、みえこといたしている吉武そのものであることが、いつも後ろから貫かれているみえこにもよくわかりました。

あれがたぶん、グルーヴってやつだったんだと思います。

#令和3年9月28日  #コラム #エッセイ #日記
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