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エッセイ『免許失効』

 貧乏人のレジャーの一つが図書館である。コロナ禍に入館できなくなって以来すっかり足が遠のいていたこのアミューズメントパークへ久しぶりに行ったろかいと喜び勇んで出かけたのであるが我が家の近所の図書館は火曜日が休館日なのであった。いつものことながら俺は間が悪い。

 皆さんの周りにも間の悪い奴がいるだろう。このフリを読むだけでたいていの人は二、三人が頭に浮かぶのではあるまいか。俺はおそらく多くの知り合いにとって、その二、三人なのではないかと思う。そんな俺でもそれなりに幸せな暮らしを送れているのだからこの国はそれなりに優しい。

 しかし、ここに来て俺に対してなかなかの厳しさを見せつけてくる国でもある。別に国は関係ないかもしれんけど、はなっからあきらめることが増えてきた。例えば一杯千円を越えるラーメン。もはや俺にはあれを食う資格がない。五年ほど前までラーメンは六百円台が相場であった。あの頃から成長できていない俺はラーメンを食う資格を失効してしまったのだ。更新しなければ失効してしまうのは運転免許だけではない。

 名前も知らないアマチュアバンドのライブをライブハウスで見ることも俺はすっかりその資格を失ってしまった。昔はなんやかんやでよくライブハウスへ足を運んだ。当日券がドリンク込みで二千円以内というようなライブを観に行き、閉店まで飲酒する。手淫ばかりの俺が飲酒を覚えたのはライブハウスだ。それはもう天地がひっくり返るほどの楽しさであり、俺の人生はあそこでおかしくなったと思うが後悔はしていない。なのに今は、チケットが体感当時の倍くらいする。よく知ってる好きなバンドのライブさえ仕事で行けないのによく知らないバンドのライブはとてもじゃないが観に行けない。

 いろんな資格を失ってしまった。それでも幸せに暮らせているのは国が優しいのではなく、そういうものだと割り切っているからかもしれないな。

蠱惑暇(こわくいとま)

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