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短編小説『ダイエット生活』

 朝8時起床。朝飯は食わない。この国には朝飯信仰があるが、朝飯を抜いてから俺はすこぶる調子がいい。
 夜は付き合いもあるし、酒を呑みたい夜もある。俺の生活で夜を抜くのは現実的ではない。かといって昼飯を抜くとなると、日中のほとんどの時間を空腹で過ごさなければならない。晩飯を少し遅めに食い、空腹を感じる前に寝て昼飯までの数時間の空腹に耐えるのがいちばん現実的なのだ。
 朝飯前という言葉がある。きわめて簡単なことを指すが、朝飯を食わずにおけば、昼飯を食うまでの間が朝飯前であるから、それまでの間は、あらゆる作業がきわめて簡単に済ませられる。これは確か、外山滋比古が書いていたと思う。詭弁かもしれないが信じれば拠り所となる。信仰とはそういうものであり、この国の多くの人に朝飯信仰があるように、俺には朝飯前信仰がある。それだけの話ではないか。
 朝飯前に作業を終わらせ、昼飯を食うわけだが、この昼飯は俺にとって遅めの朝飯ということになる。朝飯なら朝飯らしく、食パン二枚程度で済ませてしまう。そうするとちょうどいい塩梅に血糖値が上がり、酷暑とも言われる厳しい夏の日差しにも、鬱陶しい湿度にも耐えることができるから俺は散歩に出かける。炎天が俺に容赦なく降りかかり、汗が噴き出る。体内の汚物が汗と共に流れ出る。身体中の汗腺が開き、気づけば全身に十円玉大の穴ができ、余分な脂分が流れ出る。機を見るに敏な俺はここぞとばかりに六角堂の柳の木の周りをぐるぐる周ると放出した脂分が凝固し、バターができあがる。このバターで炒め物をすれば、元は俺の体に有った脂分であるから、いくら使おうがカロリーは相殺されるだけであるから、晩飯は大量に食っても問題ないし、何より不味いからそんなに大量に食えない。
 このやり方で俺は三ヶ月で十キロ痩せた。ダイエットは俺のように自分に合った痩せ方をいかに見つけられるかが成功の鍵といえるだろう。

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