1人目の客になれた話 北山編
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。雨が続いて気分が滅入りますが雨は悪いことばかりではありません。雨に降られてまで新店の開店を待つ人は少ないから自然、ライバルが減ります。かといって油断して20分前に到着してみたら誰かが並んでいた・・というのは最悪のシナリオです。万全を期すべく、私はやはり「安全圏」のオープン40分前を目指し、現地へ向かうのです。晴天でも「安全圏」なのがオープン40分前ですから、雨天なら尚更安心でしょう。5点差の9回裏に栗林を投入するようなもんです。栗林には連投や勤続疲労の懸念が発生しますが幸い私にそんな心配はありません。その点では私は栗林に勝ったといえる。
故に雨は好天とは言いにくいかもしれませんが、決して悪天候ではないのです。たまにラジオで「こうてんの場合は中止となります」と言っていて、どうして天気がいいのに中止するんだ?と思うことがあるのですが、これは「好天」ではなく「荒天」なんですね。私なら「天気が荒れ模様の場合は中止」と言い換えます。「荒天」は読む媒体用の言葉だな、と思います。ラジオは聴く媒体です。「読む」と「聴く」には割と差があるものでして、いまや「聴く」だけの媒体なんてラジオくらいのものですから、読む媒体の人が台本を書いたりしがちなのですが、そっちの人が書くとこういうことに陥りがちなんです。どっちが上とかいう話ではなく「層」が違うんです。
さて。
地下鉄北山駅を降ります。
ここまでの文章を私は地下鉄の車内で書いておりました。四条から北山までで約600字。
北山在住で去年まで同じ職場で働いていた方から先日連絡があり、中国料理のお店が北山に移転オープンするとのことだったので調べてみると、もともと北山にあったお店が北山に移転するらしい。
北山駅から地上に出ると雨は止んでおりましたが雨上がりの湿度が私を包み込みました。この湿度に包まれていたらちょっとくらいの雨は弾いてくれそうです。
北山はたまに来ることはあってもコンサートホールへ行くくらいなのですが、久々に北山通り沿いを歩きますと、京都にはじめて出てきた大学1回生の頃、「オシャレな町」といえば北山であり、滋賀の田舎育ちの私は物怖じしながら恐る恐る瀟洒な北山を俯きがちに歩いていたのを思い出します。あの頃の北山は瀟洒の瀟の字くらい私にとって迷路のような場所でした。何回行ってもいつまで経っても浮き足立つ落ち着かない場所でしたが、知らないうちに「昔はそうだった場所」に変貌しておりました。今のほうが私は好きだな。
東洋亭の隣にあったその店のガラスに「100m北→東側にて移転オープン」と貼り紙がしてあり、その貼り紙の指示通りに北へ向かうとスーツ姿の男性とすれ違いざまに目が合い、「あっ!いつもテレビ見てますよ!すごいですね、今日はそこに行かはるんですか?いや〜、昨日から気になってたんですよ。ひょっとして来はるんとちがうかな〜って。ほんまに来はったからびっくりしましたわ。ほんまに、よーいどんとか見てますよ。あ、写真撮りましょ!」と実にありがたいことをおっしゃっていただいたのですが、おかしいな、私が出たのは明石家電視台だし、それも一回きりのことだし、でも人違いされてる割には話は噛み合うし。なんにせよ、ありがたいことです。
そんなことがありながら移転先には無事開店40分前に到着。誰も並んでおりません。
店頭でこれを書いておりますと、シュッとした男性店員さんがやってきて「ご予約いただいたら並んでいただかなくてもけっこうですので、お名前とご連絡先を頂戴してもよいですか」ということでしたので、仰せのままにいたしました。うん?ブレーキランプ2回点滅は愛してるのサインですが、これはひょっとして「そこで待たれると迷惑やからオープンまでどっか行っとけ」というサインなのか、と思いましたが、正直に「できれば1人目のお客さんになりたいのですけど・・」とお伝えしたところ、「そういうことでしたらこのままお待ちください」と納得していただけました。
オープン15分前、先ほどの男性店員さんがやってきて「1階の準備ができましたので中でお待ちください」と店内へ私を導いてくださいました。その導き方の丁寧なこと!これをホスピタリティと呼ぶのでしょう。移転オープンを祝う花輪が各所から届いており、置く場所が無いため客席を一角、花輪を置くためのスペースにしたそうです。「よろしければご覧になってください」と言われ、丁寧に導かれるまま、花輪を眺めました。こんなのは初めてだ。あの花輪ってお店の人は見てもらいたいものなんですね。写真は料理長に撮っていただきました。
午前11時、私は再び、丁寧に二階へ導かれ、1人目の客として椅子に腰掛け、ランチコースを注文しました。
令和6年7月2日午前11時、北山に移転オープンした中国料理「白龍」の1人目の客は私です。
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