短編小説『フリフリフルムーン』
ムーランルージュ長良川先生に師事して半年、ワタシは満月の夜になると、左手にお財布を握りしめ、お庭の真ん中で全裸になり、月光を浴びながら両手を挙げ、つまり、自身のカラダでないものは左手に握りしめたお財布だけの状態で、「お月様、お月様、今月もありがとうございます、ありがとうございます、すべてはお月様の引力のおかげでございます、わらぱなばみなじだらかじだらきわらぱなばみなじだらかじだらき」とまず、お月様へご挨拶を述べたのち、延々ムーランルージュ長良川先生直伝の呪文を唱えながら、両手をフリフリフリフリしております。
先生は、財布以外に不純物を身につけていてはいけないとおっしゃいましたのですが、不純物とは果たしてどこまでがそうであるのか、わかりかねますから、不純物と疑われる可能性のあるあらゆるものは脱ぎ捨て、装着するのはやめておりますが、素足にお庭の砂利がくっついてしまうのと、サンダルを履くのとではどちらのほうが不純物だと思いますか、とムーランルージュ長良川先生に質問してみたいと思いながら、まだできずにいます。
わらぱなばみなじだらかじだらきわらぱなばみなじだらかじだらき
意味はわかりませんし、長良川先生が言うには大事なのは意味ではないのです、それを月に向かって唱えることこそが大事なのです、とおっしゃいます。じだらかじだらきの次にワタシはどうしても「自堕落」を思い浮かべてしまうのですが、こうしてほぼ月に一度のペースで夜中にお庭に出て同じ儀式を律儀に遂行するワタシのどこが自堕落だというのでしょう、ああ、そうか、じだらきで止まっているんだから、それこそすなわち、「自堕落」の一歩手前で踏みとどまっているということではありませんか、ねぇ、先生?いやいや、違う、先生は大事なのは意味ではないとおっしゃっていたではないか。
ムーランルージュ長良川先生に師事して以来、職場の人間関係も良好で、上司も部下もワタシに余計なことを話しかけてこなくなり、おかげで自分のペースで仕事に打ち込めるようになり、定時で帰っても何も文句を言われることは無くなりました。先生に師事して最初の満月の夜の儀式のことを会社で話した頃からだと思います。さっそく儀式の効果が出たものですから、ワタシはそのことにとても驚き、これからも先生に付いていこうと思った次第でございます。肝心のお財布の中身はまだまだ心許ないんですけれど、それも先生がおっしゃるには、毎月の儀式のおかげで現状を維持できているわけなんですものね。やめてしまったらお財布からお金が逃げていってしまうに違いありません。職場の人間関係もまた元に戻ってしまうでしょう、おお、怖い怖い。そんなのはイヤですから、先生、今後とも、ワタシは先生にお世話になり、満月の夜は欠かさず、全裸で呪文を唱えながらお財布フリフリいたします。あ、今月分の3万円は明日、振り込みますね。
#令和4年1月13日 #コラム #日記 #エッセイ
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