短編小説『居酒屋かんのわのなの民で合コン』
つまらない合コンに来てしまった。男5人女5人で開く予定が男に1人、欠席が出たため誘われたのだ。「かんのわのなの民」という有名居酒屋チェーンだが、普段飲みに出ないオレにはよくわからない。5時間飲み放題のコースが2000円で女を酔わすのにちょうどいいんだと主催の山田が言っていた。山田のことも実はほとんど知らない。もちろん他の男のことも、いましがたの自己紹介ではじめて知ったくらいでもう忘れた。女のほうはかわいい順に秋山さん、清原さん、田辺さん、全部西武ライオンズだが田辺さんがデストラーデさんなら尚よかった。
「じゃあここで!すべらない話ターイム!」
出た出た。素人のお笑いかぶれ。オレが一番キライなやつ。素人がやり合って面白かった試しがない。だいたいプロでも緊張感を維持しながら話しているのに素人が酔っ払いながら話をして何が面白くなるというのか。
「じゃあ、ここまであまり声を聞いてませんので!つーじーからお願いしましょうかね?」
つーじーというのはオレのことだ。辻達也。オレも西武OBなんだが、という話をしたところで秋山さんも清原さんも田辺さんも知らないだろうから仕方なしにツレの涌井の話をすることにした。涌井も元西武なのにもったいない!
「オレのツレの涌井が夏の暑い夜に鴨川沿いのお好み焼き屋へ女の子と2人で呑みにいった。マキちゃんっていうその子は少し前に涌井の友達の男に振られたばかりだったから、涌井はその心の隙間に入って今夜、マキちゃんとどうにかなりたいと思っていた。お店で一通り呑んだあと、涌井とマキちゃんは鴨川沿いのベンチに腰掛けて改めて乾杯したんだけど、マキちゃんが、振られた男のことを思い出して泣いてしまった。その泣いてる横顔が綺麗だったので涌井はマキちゃんに『キスしよ』と言ったところ、マキちゃんが『あかん』と断るので、『なんであかんねん』と聞いたら『そんなんしたら涌井くん私のこと好きになってしまうからあかん』と言われた瞬間に、涌井はキスがしたくてたまらんかったから『大丈夫!ならへんからさせて!』って言ってしまって」
なかなか上手い具合に話せたと思ったが、反応がよくない。異様に冷たい空気が流れている。ちょっとクズな男の話がいけなかったのか。
「え。つーじーの話したのって誰の話し?」
「いや、だから友人の涌井の話し」
「え。ていうことは、オリジナルなん?」
「え。オリジナルって、そりゃオレの話やけど」
「あー、そうやんな。びっくりした。いきなり知らん話するから、こっちもどう反応していいかわからんし。すべらない話しようて言うてるのに」
オレは何がなんだからわからなかったが、そのまま話を聞いていたら、次は山田が話しをするという。
「じゃあ、気を取り直して次は僕が話します!えーと、宮川大輔の喫茶店の話!準備はいいですかー!!」
女たちが黄色い声を挙げた。
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