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歯切れがいいからって信用できるとは限らないんやで

 3月20日の読売新聞に東京大学特任准教授の内田麻理香さんが寄稿していました。それによると、専門家は科学に誠実であろうとすると、確実に近いレベルだと思っていても「100%大丈夫」とは断言できないため「現段階では高い確率で起こるデータは得られていない」といった言い方になってしまうそうです。それを私は誠実だと思うんですが、人によっては「歯切れが悪い」と感じてもやもやした気持ちになるんだそうです。近頃、歯切れのいい方ばかりテレビでお見かけするのは、つまり歯切れがいいからなんでしょう。

 その歯切れのいい人たちに対して思うところがある人たちは、その歯切れのよさを危惧しているにも拘らず、実に歯切れよく、歯切れのいいあの人たちを否定します。その姿はどこか滑稽です。あれは歯切れがいいことについて思うところがあるわけではないのかしら。

 リーダー的存在の人の言葉の歯切れがよすぎるのも考えものです。3月21日の毎日新聞『余録』に「リーダーの権威や指導力が強すぎて部下がものを言えない環境では、情報を正確に把握できず、ミスを招きやすい。権威が弱すぎてもチームをまとめられず、物事が進まない。そのあんばいが難しい」と書いてありました。

 リーダーの言葉の歯切れがよすぎて誰も反論ができず、反論しようものなら干されたり、あるいはムキになって論破しにかかられたり、これってロシアの大統領にすごく似ている気がします。戦争反対とか、プーチン何やってんねん、とか、言ってるその人がプーチンだったりする世の中です。逆に権威が弱すぎると部下になめられてしまいます。権威を持った人はこれがホントに耐えられない。辛抱ならないから近しい人間はイエスマンばかり集めて、そうでない人間は遠ざけてしまう。弱い人ほど臆病で、臆病なほど権威にしがみつきたくなり、せっかく手に入れた権威を手放したくないがために周りをイエスマンで固めてしまう。気が強そうなプーチンも実は想像以上に怖がりなのかもしれない。プーチンのことはわかりませんが、そういうリーダーは周りにたくさんいるような気がする。

 3月21日の産経新聞にはドイツ在住の作家の多和田葉子さんが寄稿していました。多和田さんが2010年に初めてウクライナへ行ったとき、お世話になった詩人のPさんがドイツにいる知人友人全員に宛てて書いた手紙を多和田さんはネット上の回覧板で読んだそうで、その手紙の印象的な一節を紹介していました。以下、引用します。

「あなたたちを助けるために自分たちにできることはないかといつも訊かれる。あなたたちは各人それぞれの分野で、言葉や行いを通して、僕らを助けることができる。でも一番大切なことは、あなたたち自身であり続けることだ。他人の身になって考え感じることができ、世の出来事に常に関心を持ち、良心的で、寛大で信頼できるあなたたち自身であり続けることだ」

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