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1人目の客になれた話 壬生編

涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。すでにプレオープンしてるお店はどういう扱いにするのか、とか、そういうのは曖昧にしております。なんでも決まりを決めすぎると窮屈になってしまいます。

今日は数日のプレオープンを経てコーヒーのお店が本オープンする日です。私の趣味に理解のある方がTwitterで教えてくださいました。しかしプレオープンでは午前8時30分に開店していたみたいなので、その時間ではたぶん無理だろうな、と思いつつ、8時過ぎに家を出て、ダメ元でなんとなく、そちらのほうへ歩いていました。

祇園梛神社の東側の道を南下すると、壬生寺です。目当ての店は壬生寺近くにあるそうですが、どうせ間に合わないだろうというつもりで歩いてきたから、ちゃんとしたお店の場所も調べていませんが、外観だけはInstagramでチェックしておりましたところ、しばらく南下していきますと、壬生寺の門のやや北のスペースに、その外観がありました。

明らかにオープン前の様子ですが、中には女性の店員さんが1人おられますので、「たまたま通りがかったら、知らんお店がある」っていう体でお店を覗いてみました。偶然を装うのは出会いの常套手段です。

「オープンしてますか?」
「あ〜、いえ、はいっ!アイスコーヒーとかだけならいけますよ」

ここで私は思いがけず1人目の客になれたかもしれないと思いつつ、まだ確信がありません。なにせテイクアウトのお店ですから、私のような感じで入店し、すでに退店している客が今朝、いたかもしれません。

「それならアイスコーヒーお願いします。あっ!現金使えないことないですよね?」
「だいじょーぶですよー」

数日前、オープンしたカフェは現金不可の店でしたから、まず確認しておく必要があったのです。アイスコーヒーはレギュラーサイズ390円。私は400円をキャッシュトレーに置きました。あれをキャッシュトレーというのは、いま調べてわかったことです。フランス語で「カルトン」という洒落た呼び名もあるみたいです。レジに400と打ち込み、キャッシュトレーの400円を中に入れたかった店員さんは、しかし、パソコンでいう「enter」を押したにもかかわらず、レジの金を収納するところがガチャンと開かないため、「あれ?おかしいな?」と、コンコン、レジを叩いたりしております。

「だいじょうぶですか?」
聞くと店員さんは照れた笑顔で、
「昨日来たばかりなんでよくわからないんですよ」といいます。

言われた瞬間、私は彼女が昨日来たばかりの新人だからレジの使い方を知らないのだと認識しましたが、すぐに、昨日来たばかりなのはレジのほうだとわかりました。

「へえ、昨日来たんですか」
「そうなんです。プレオープンの間はレジがなかったから手書きで付けていたんです」
「と、いうことは、このレジを使うのは、これがはじめて・・・」
「そうなんです」
はにかむ顔がかわいらしい。
「つまり、これが記念すべき・・・」
「はい!最初やのに手際が悪くてすみません」

いやいや、手際なんていくら悪くても構いませんよ。最初なんだから!

アイスコーヒーを受け取る。
ただいま8時20分。
「ほんまは8時30分オープンなんですよね」
「プレオープンの時は8時30分オープンやったんですけど、今日はもう少し・・・いや、それでも全然」

ここで店員さんは、おそらく「なんやねん、偶然っぽく来たくせにオープンの時間知ってきてるんやないかい」と思ったんじゃないかしらと思う。私はもはや、正体を隠す必要はなかろうと思い、「実はオープンしたお店の1人目の客になるのを趣味にしてるんですよ」と伝えたら、彼女はどういう反応が正しいのかわからないといった表情を一瞬見せながら、それでも微笑みながら「それなら、まぎれもなく1人目のお客さんですよ!」と念を押してくれて、真綿色したシクラメンより清しい朝でありました。

7月16日、午前何時かわかりませんが、本オープンする「だんだら珈琲店」の1人目の客はまぎれもなく私です。

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