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1人目の客になれた話 大宮高辻編

涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。今日は朝の8時に、大宮高辻西入ルに喫茶店がオープンするという情報を得ておりましたので、オリンピックの開会式を見ている頃には、早起きをせねばならないと心の準備をしていたのですが、そういう時に限ってなかなか眠れないものです。ようやく眠りに就いたのは4時を過ぎておりました。

「今日は1人目の客になるんとちがうの?」
という、おそらく我が家にしかない起こされ方をしたのが7時20分!ぬおお!あと40分しかない!今日オープンするお店は、後継者のいない昔ながらの喫茶店を次世代にバトンタッチする「京都喫茶文化遺産プロジェクト」により、新たにオープンする喫茶店です。もとは同じ場所で40年間営業していた「喫茶 陣」というお店でした。

そのような歴史的瞬間でありますから、40分前には着いておかないと1人目の客にはなれないのではないか?と思っていたのですが、起きたのがその40分前です。これは無理かもしれんな。しかし、ここであきらめてもどうにもならないが、とりあえず1人目の客を目指せば何かしらドラマがあるはず!

すでに起きていた次男が「どこに行くの」と聞くので「1人目のお客さんになりに行くねん」と答えると「あ〜、あれか〜、なんでそんなことしてるの?」と質問され、答えはうやむやにしたままで家を出ました。

私はなぜ、オープンしたお店の1人目の客になるんだろう。う〜ん、考えたこともなかったな。

Twitterの青よりもやや薄い水色の晴天。この場合は空色って言ってあげるほうがいいですね。ミンミンジリジリ蝉の鳴き声。割と緩やかに延々と続く下り坂を誰を自転車の後ろに乗せることなく、ブレーキを強く握りしめることはなく、それでも急ぎで急ぎで下っていきます。驚いた。7時30分には着きました。

「喫茶 陣」の佇まいはそのまま。入口の扉は開いており、奥のカウンターに私より年上とみられるお兄さんがいます。姿は見えませんが話し声から察するに女性も中にいるみたいです。二人で開店準備をされています。幸いにして、今日このお店を最初に訪れたのは私のようです。

この木なんの木きになる木。
見たことはあるけど何ていう木かはわからない木の下に自転車を停めました。高辻通りの北側の歩道です。歩道に面したお店ですが、歩道から入口までにはジャイアント馬場をまっすぐ横たわらせた程度の距離があり、カウンターからはこちらの様子が丸見えで、私はどこにどんな風にして開店を待てばよいかがわからなくなります。できることなら、入口を塞ぐようにして待機することで、他の追随を許したくないのですが、お店の人からしたら開店前によく知らないおっさんが入口に待機したら、営業妨害やと思っても仕方ありません。

こういう時は、お店の人から声を掛けてくれると嬉しいんやけどなー、と思っていたらカウンターからお兄さんが出てきまして、「お客さんですか」「はい!そうです!」(ここは後輩っぽい初々しさを出す)怪しい者ではございませんよ、ということを証明するために「三四郎さんがfacebookにお店のことアップしてはったんで!8時オープンですよね?」とお兄さんが間違いなく知っているであろう方の名前を出して安心安全な人材ですよとアピールします。

三四郎さんというのが、まさに前述した「京都喫茶文化遺産プロジェクト」を展開している方で喫茶マドラグのオーナーです。去年、マドラグが藤井大丸店をオープンし、そこの1人目の客になったところ、私に「1人目の客のプロ」というありがたい称号をくださったのも三四郎さんです。

「三四郎くんの知り合いなんですか」
(ここ、「くん」やったか「さん」やったか曖昧)「知り合いというほどでもないんですが、facebookでこの店のことアップしてはりまして。オープンしたお店の1人目の客になるのが趣味なんで、来てみたんです」

そうするとお兄さんは、私の赤いTシャツの胸のところに目を遣り、ニヒルな笑みを浮かべまして「写真撮っていいですか」とおっしゃり、「逆に私もいいですか」とお願いして、さっきから声だけ聞こえていた女性の店員さんに写真を撮ってもらいました。

まだ本来の開店時間になっていないから、なのかわかりませんが、私は店内ではなく、入口前に設けられているベンチの席に座るよう促され、そこで蝉の声を聞きながらホットコーヒーを飲みました。しばらくすると、お兄さんの知り合いとみられる男性客がやってきて、お店の中に入っていきました。もうこの頃には開店準備も整ったのでしょう。店内からはBGMが聞こえてきます。ノラ・ジョーンズのDon't know whyでした。

次男にも問われていたDon't know whyへの答えがギュッと凝縮された十数分間でした。

7月24日午前8時、大宮高辻西入ルにオープンした「INADA COFFEE 」の1人目の客は私です。

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