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短編小説『メタファー』

堀川通りより一本西の細い通り、あれは何通りというのだったか、わからないがこの際、何通りでも構わない、それは問題ではない、ともかく南北の通りと、四条通りより何本か北の細い通り、蛸薬師通か錦小路通りだと思うがこれもどちらでも構わないのだが、その東西の通りを澤井が朝、東へ、つまり堀川通りへ向かい歩いていると、先に説明した堀川通りより一本西の細い南北の通りとの交差点の手前あたりでかなりしつこく連発するクラクションの音が聞こえてきた。

ああ、まただ、失敗したと澤井は思った。通勤にこの道を通ると、こうしてたまにせっかちな車とかち合い、気分が悪くなる。不機嫌と不遜を音にしてみましたというような、不愉快極まりないクラクション音を連発させ、澤井をはじめとする歩行者や自転車、対向車を問答無用に停止させ、交差点で一時停止することなく右折して北上するのだ。ただでさえ、力の強い自動車が力を誇示し、「おまえら、そこに止まっとかんかったら轢き殺すぞ!」と恫喝まがいのやり口で道を空けさせるのは、およそ力持ちのやることではない。

澤井はなるべくこの道を通らないようにしていたのだが、今朝はうっかりしていた。自分さえ気をつけていれば朝からこんな嫌な気分にならなくて済んだのに!もしも自分にそのような力があるのならば、澤井はかのドライバーに説教してやりたい。あなたの思い通りに誰に邪魔されることなくスムーズにその交差点を右折するために、果たしてどれだけの人が目をつぶり、耳を塞ぎ、心を殺しているだろうかと。あなたによって撒き散らされたストレスが、私やその他、あの交差点で目をつぶり、耳を塞ぎ、心を殺した人たちのストレスとなり、京都中に運ばれるのだ。いや、緊急事態宣言も解除されたから遠い都市にも届くかもしれない。あなたがあなたの思うがままに振る舞いたいがため、である。

斯様な嘆きを私たち歩行者や自転車は、あなたのように不遜な態度でクラクションを鳴らすことなどできず、心にぐっと押し隠し、作り笑いをして耐えているのだ。ってなんのメタファーやねん。

#令和3年10月6日  #コラム #エッセイ #日記
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