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年越しそばを食べ損ねると不運に見舞われる~年越しそば奉納儀式奇譚【怪談・怖い話】

「年越しそばを食べ損ねると不運に見舞われる」――この迷信は、日本全国でよく耳にするありふれた話だ。
しかし、東北のある雪深い町では、事態がまるで別次元の話になる。そこで行われる「年越しそば奉納儀式」は、単なる年中行事ではなく、数百年にわたり命を懸けて続けられてきた“戦い”そのものなのだ。

この儀式がいつ、何のために始まったのか、詳細は不明だ。ただ、町に古くから伝わる話によれば、かつてこの地に“何か”が封じられたという。その“何か”は雪の深い夜に目を覚まし、空腹を満たすために人を喰らう存在だとされている。年越しそばにはその封印を維持する力が込められており、町全体でそれを守り抜くことが、結界を維持する唯一の方法だと信じられている。

この儀式に参加した佐藤さんの話を掘り下げてみよう。

「振り返ってはいけない」――それは儀式における暗黙の了解で、誰もが従うべきルールだ。佐藤さんはそばをすすりながら、背中に何かが迫ってくるような感覚を味わったという。静まり返った雪景色の中、風の音に混じって、明らかに人間ではない“声”が囁いていた。その声は、冷たい風そのものが意思を持ち、耳に直接染み渡るようだったと彼は語る。

奇妙なのは、その声が具体的な言葉には聞こえないのに、「こちらを見ろ」と訴えかけてくるような感覚だったということだ。佐藤さんがそばを食べ終え、箸を次の人に渡した瞬間、背後の気配はスッと消えた。しかし、その短い時間の中で、何人かの住民が震えながら涙を流していた。彼らが何を見たのか、誰も語ろうとはしなかった。

そして問題が起きたのは翌朝のことだ。

若い男性が忽然と姿を消し、その家の前には、異様なまでに綺麗なそばの器が残されていた。その器には、途中まで食べられたそばが入っていたが、今も警察の保管庫に保管されているという。この器について調査を行った学者たちは口をそろえて、「年代の特定が不可能」と語る。陶器には通常、製作された時代や地域特有の特徴があるものだが、この器にはそれが一切見られないのだ。

さらに奇怪なのは、消えた男性の部屋で発見された雪だ。完全に閉ざされた部屋の中、畳の上だけに雪が積もっており、それが奇妙な模様を描いていた。その模様はまるで人間の顔のようで、ある住民は「あれは儀式中に聞いた声の顔そのものだ」と呟いたが、それ以上は語らなかった。

この出来事をきっかけに、心霊研究家や都市伝説マニアがこの町に注目するようになった。ある研究家が深夜、神社の近くで音声を録音したところ、「腹が減った……」と低く呟くような不気味な声が記録された。その声を周波数解析した結果、人間の声帯では到底発することができない範囲の音が含まれていたという。

また、儀式で用いられるそばの器にも謎がある。その器には、町に古くから伝わる奇妙な文様が彫られており、それを調査した歴史学者は驚きを隠せなかった。それが異国の古代文字に酷似しており、「供物」や「封印」を意味していると判明したからだ。しかし、その文字には欠けた部分があり、それが「封印の破壊」を暗示しているというのだ。

これらの話がどこまで真実かはわからない。ただ、町の住民たちがこの儀式を真剣に守り続けているのは事実だ。その「そばを食べる」というルールの裏には、何か重大な意味が隠されているのだろう。

最後に、佐藤さんが語った一言が胸に残る。

「あの儀式は、神様のためじゃない。“あれ”のためにやってるんだよ。あの何かが、まだ町のどこかにいるんだ」

もしこの町を訪れることがあれば、絶対に年越しそばを食べることを忘れないことだ。さもないと、あなたの玄関先にもあの奇妙に綺麗なそばの器が置かれるかもしれない――。


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