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トンネル前の公衆電話【怪談・怖い話】
NTTの下請け会社に勤める男性が語った話。
彼の業務には、地域内に設置された公衆電話の定期点検が含まれていた。これは、電話機本体の状態を確認したり、硬貨やテレカの動作を試験する作業だ。普段はトラブルが少なく、ルーチンワークとして比較的楽な作業に分類されていた。だからこそ、その日も “点検” と聞いて軽い気持ちで現場に向かった。
朝から公園やマンション前の公衆電話を点検し、昼食後に二時間ほど昼寝をする余裕もある一日。次の目的地をスマートフォンで調べると、それは 心霊スポットとして知られるトンネル前の公衆電話 だった。そのトンネルは、過去に不審死や失踪事件が相次いだ場所として地域で語り継がれており、夜には奇妙な声や人影が目撃されるという噂が絶えなかった。彼は心霊話がまったくの苦手というわけではなかったが、小心者の自分にはその場所が気がかりだった。
目的地は 山の中 にある。車を三十分ほど走らせる間、一台の車ともすれ違わず、人影も見当たらない。薄い霧が木々の間を漂い、遠くから鳥の鳴き声だけが響く。普段は見慣れた山道でも、こうして一人で向かうと、どこか異様な雰囲気を感じるものだ。
トンネル前に到着した彼は、専用の鍵とドライバー、点検用のスマートフォンを手に公衆電話へ向かった。しかし、いざ扉を開けようとしてもびくともしない。錆びついているわけでもなく、鍵もきちんと差し込んでいる。それでも動かない扉に業を煮やし、会社の統制部に連絡しようと試みるが、山間部のため電波が悪く繋がらない。こうした状況は珍しくないが、この時ばかりは妙に焦りを感じたという。
電波の届く場所を求めて公衆電話から百メートルほど離れると、ようやく統制部と連絡が取れた。事情を説明すると「写真を撮って報告書に添付してほしい」と指示される。渋々承諾し、再び公衆電話の方を振り返ったとき、彼は思わず息を呑んだ。
公衆電話の中に、長い髪の女性が立っていたのだ。うつむき加減で受話器を握り、何かを話しているようだが、声はまるで風にかき消されたように聞こえない。霧が彼女の周囲を漂い、顔の表情どころか、その輪郭さえも不明瞭だ。白い服を着ているように見えたが、それはどこか古びて薄汚れているようだった。肩がわずかに上下し、微妙に体が揺れているようにも見え、不安定なその姿は彼の目に異様に映った。
動揺しながらも「見間違いだろう」と自分に言い聞かせた。だが心臓は早鐘を打っている。恐る恐る近づいてみると、いつの間にか女性の姿は消えていた。中を覗き込んでも誰もいない。不安を抱えながらも、指示通り写真を撮ると、不思議なことに今度は扉が何の抵抗もなく開いた。
業務を続けるため、硬貨とテレカを試してみた。硬貨は問題なく使えたが、テレカがどうしても入らない。「機械の不具合だろう」と判断し、車に戻り交換用のパーツを取って再び公衆電話へ向かった。新しい部品に交換すると、テレカが正常に入り、動作も確認できた。安堵しながら次の現場へ向かう。
その日の仕事を終え、事務所に戻った彼は、交換した部品を修理担当に渡した。その際、点検中に見た “女の姿” を話のネタにしてみた。
すると、一階にいた修理担当の社員が急に険しい顔をして彼を呼んだ。
修理担当は、渡された部品を開けたところ驚くべきものを見つけたという。そして彼に機械の中を見せた。
テレカの読み取り機能を支えるモーター部分に、びっしりと絡みついた長い髪の毛があったのだ。それは異常なまでに多く、絡み方も不自然だった。髪の毛はただ詰め込まれているだけでなく、内部の部品に絡みつくように入り込み、モーターの動きを完全に妨げていた。黒々とした髪の毛は湿ったような光沢を放ち、まるで触れると冷たい感触がするかのような不気味さを感じさせた。
先ほど見た 公衆電話の中の女性の髪 が脳裏をよぎり、背筋が凍る思いがした。あの姿はやはり幻ではなかったのだろうか。その場にいた他の社員も顔を見合わせ、不気味そうに眉をひそめた。
翌日、写真を確認したが、どれにも女性の姿は写っていなかった。彼は好奇心からトンネルについて調べてみた。そこで過去に起きた事故や事件についての記録がいくつか見つかったものの、公衆電話にまつわる詳細は分からなかった。ただ、付近では以前から霊的な目撃談が頻繁に報告されているという。
幸い、その後彼の身に何かが起こることはなかったという。ただ、あの髪の毛を思い出すたびに胸がざわつく。果たしてあれは何だったのか。その答えを探そうとするたび、彼はふとした瞬間に背後に視線を感じるようになったのだという…。 彼はその日以来、心霊スポット付近での仕事には慎重になるようにしているという。今でも答えは出ないままだ。
[出典:406 :本当にあった怖い名無し:2024/05/15(水) 15:47:14.58 ID:eVDNJnCq5]
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後日談
あの日の点検から一週間後、彼(点検を担当した男性)は、いつも通り事務所に出勤していた。業務中は特に変わったこともなく、あの公衆電話の一件は「奇妙な体験」として徐々に心の奥底へ追いやられつつあった。
ところが、その日の午後、社内にある一本の電話が鳴り響いた。電話の受話器を取った事務員が応対すると、どうやら一般の利用者からの苦情のようだった。内容は「公衆電話が使用できない」というものだったが、場所を聞いて驚いた。
問題の場所は、あのトンネル前の公衆電話だったのだ。
「修理は完了しているはずだが……」
統制部は疑問を抱きつつも、再び点検が必要だと判断し、彼に再訪を依頼した。気が進まなかったが、業務である以上断ることはできない。彼は再びトンネルへ向かった。
到着すると、公衆電話は一見問題ないように見えた。だが、中に入って硬貨を投入し受話器を取ると――異常なことが起きた。受話器から「ツー」という音ではなく、小さな声が漏れ聞こえてきたのだ。それは確かに人の声で、何かを囁くようだった。
「聞こえますか……?」
思わず声をかけるが、応答はない。ただ、耳を澄ますと徐々に声が明瞭になっていく。
「……戻して……戻して……」
その言葉を聞いた瞬間、彼はゾッとした。
「戻して」とは何を意味しているのか? 誰が話しているのか? 頭の中は混乱していたが、それ以上受話器を耳に当てていることに耐えられず、思わず放り出した。
震える手で機械を開け、再度点検を始めると、またしても異常が見つかった。読み取り装置に、またもや長い髪が絡みついていたのだ。以前よりも多く、濡れたような光沢を放つ髪の毛が、まるでそこに根を下ろしたかのように絡みついている。
「これはさすがに異常だ……」
恐怖を感じながらも作業を続け、髪を取り除き、装置の正常化を試みた。その時、ふと足元に違和感を覚える。何かが足首に触れたような感覚。驚いて視線を落とすと――何もない。ただ、受話器がじりじりと揺れていることに気づいた。
その日の作業を終え、事務所に戻った彼は、またしても修理担当に異常を報告した。だが、これが最後の奇妙な出来事ではなかった。翌日、事務所に妙な封筒が届いたのだ。それは、差出人不明の状態で彼宛てに送られてきた。
封筒を開けると、中には何枚かの写真が入っていた。驚くべきことに、それは彼がトンネル前で撮影した公衆電話の写真だった。だが、彼の記憶と異なる点があった。写真のすべてに、電話ボックスの中にうっすらと立つ「女の影」が写っていたのだ。
「こんなはずはない……」
その場にいた他の社員も写真を確認し、皆口をつぐんだ。確かにそこに写る女性は、彼があの日見た「長い髪の女」の特徴そのものだった。背筋が凍る思いで写真を見つめていると、写真の一枚に小さな文字が書き込まれているのに気づいた。
そこにはこう記されていた。
「次は、あなたがここに来る番です――」
その後、彼は仕事を辞め、行方をくらませた。事務所には今でも、あの写真が保管されているという。だが、それを見た者たちの間では、いつも奇妙な噂が囁かれている。
「写真の女の姿が、少しずつこちらを向いている」
それが事実かどうかは誰も確認していない。いや、確認しようとする者がいないのだ――。
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