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死線をくぐるリズムゲーとしての『SEKIRO』

超絶難易度で名高い『SEKIRO』にはリズムゲーとしての側面があることは各所で言われている。試しにTwitterで「SEKIRO リズムゲー」と検索してみるといい。たくさんの人がこの側面に気付いていることがわかる。ただ、具体的にどういうことなのか、詳しく説明している人は少ないので、まだSEKIROをプレイしていない、もしくはプレイしたがリズムゲーの側面に気付かずに終えてしまった人向けに自分が書いてみようと思う。

SEKIROの剣戟アクションは、基本的にはLボタンでガード、Rボタンで攻撃。このふたつの操作で事足りるようにできている。他にジャンプ回避やステップ回避、ダッシュ、見切り、特殊武器(忍具と呼ばれている)の使用もあるが、基本はこの二つだ。

ガードはタイミングによってさらに二つに分かれる。ガードボタンを押し続けていると、敵の攻撃を受けても体力を奪われることはないが、「体幹」と呼ばれるゲージが溜まり、どんどん不利になっていく。タイミングばっちりのいわゆるジャストガードに成功すると「弾き」となり、こちらの不利がなくなるどころか、むしろ有利になる。素早い確定反撃が可能になることがあるだけでなく、相手の「体幹」ゲージを溜め、一撃必殺の「忍殺」に繋げられるからだ。

故に、SEKIROにおける剣戟は、「敵の攻撃をジャストガードでタイミング良く弾き、相手の体幹ゲージを溜める」のが正攻法だ。

もちろん、ジャストガードは失敗すれば手痛い攻撃をまともに食らうことになるので、大きなリスクでもある。このリスクを回避すべく、ガードの押しっぱなしやステップ回避、ダッシュ、ジャンプを駆使して、ヒットアンドアウェイの戦法をとり、先に進めることもできる。

但し、SEKIROの主人公の攻撃力は、他の多くのアクションゲームと比べて著しく低い。ヒットアンドアウェイ戦法だと、ボス敵を倒すまでに10分以上かかることもザラだ。10分程度どうということはないと思うかもしれないが、緊張を持続させなければならないアクションゲームのボス戦で10分というのは、他に類を見ない長さと言える。長さもさることながら、戦っていて全く楽しくない。耐えて耐えて耐え忍ぶ苦痛の10分となる。

これに対して、非常にリスキーではあるものの、正攻法のジャストガード「弾き」と、積極的な攻撃を主体とする戦法だと、この戦闘時間を大幅に短縮することができる。ほとんどのボスを2〜5分で倒せるようになる。そして楽しい。剣戟の内容としてはほとんど防御に徹しているように見えるが、心の中では攻めて攻めて攻め倒す、脳内麻薬ドバドバの楽しい2〜5分になる。

こちらの攻撃が相手に当たらず、相手の体力がほとんど減っていなくても、「弾き」を繰り返していくと、相手の体幹ゲージがどんどん溜まる。溜まりきると、「忍殺」で倒すことができる。単なる防御の一種にしか見えないジャストガードの「弾き」が、実は最大の攻撃ともなっているのだ。

SEKIROに挑んだ多くの人が、この弾きの楽しさを知る前に心折れて、ゲームを途中で投げている。実にもったいない。

葦名弦一郎という、序盤から終盤まで何度も戦うことになる中ボスがいる。こいつが実に良くできている。

葦名弦一郎との戦いで、プレイヤーは選択を迫られる。弦一郎はゴリ押しでただ攻撃を続けるだけでは絶対倒せない。また、ガードボタンを押し続けて防御に徹しても、ジリ貧に陥るだけで容易には倒せない。

ヒットアンドアウェイによる超長期戦か、弾きと攻撃を組み合わせた短期戦のどちらかでしか絶対倒せないのだ。

多くのプレイヤーは、1周目の弦一郎戦で、超長期戦の選択が不可避となる。弦一郎の攻撃パターンが多彩すぎて、弾きで対処しきることができないからだ。弾きを失敗すると、ガードにも失敗するということだから、すぐに死んでしまう。最初は逃げ回り、攻撃を受けるたびに回復に徹するしかない。その代わり、1周目でイヤというほど死にまくり、弦一郎の攻撃パターンの多くを頭に叩き込まれる。

他のボスもみな同じで、1周目は攻撃パターンをようやく覚えたか覚え切れてないかというところでギリギリ勝ち、先に進む。この繰り返しだ。

だが、ラスボスを倒し、エンディングを迎えるところまで耐えきったプレイヤーは、2周目に突入し、はたと気付く。今まであれほどきつかった敵との戦闘が、劇的に楽になっていることに。

そしてもう一つの事実に気付く。「SEKIROはリズムゲーだったのだ」ということに。

1周目で敵の攻撃パターンの多くを体得したプレイヤーは、敵の連撃のリズムを掴んでいる。たとえば、タタタン・タンタンというリズムの5連撃を体に叩き込まれているプレイヤーは、5連撃の始動モーションを見た瞬間に、Lボタン(ガードボタン)を、タイミング良くタタタン・タンタンと押して全て弾きで返せるようになっている。

これが、「SEKIROはリズムゲー」と言われる所以だ。

敵の攻撃モーションは多彩で、各ボスに数種の始動モーションがある。連撃が終了したとき、反撃の隙ができる場合もあれば、別の強力な連撃へと隙無く連携するパターンもある。

Aメロから、次にBメロに繋がる場合もあれば、Bをすっ飛ばしてCメロに繋がる場合もあれば、メロディが繋がらず、少し長めの休符(反撃のチャンス)が入ることもある、リアルタイムでランダム進行する即興音楽みたいなものだ。

ただ、完全なランダムではない。AメロからはBメロ、Cメロ、長めの休符の三択以外ないし、Cメロからは必ずDメロに繋がるという規則性もある。ちよっと複雑ではあるけれど、次の進行が全く予測できないわけではないのだ。正確にはメロディではなく、リズムだが。

全ての連携パターンを体が覚えると、敵の攻撃始動モーションを見た瞬間に、プレイヤーは敵の攻撃リズムと同じタイミングで、ジャストガード「弾き」を繰り出せるようになる。

敵が指揮者で、演奏者が自分だ。敵のタクト(始動モーション)に合わせて、タイミング良く太鼓(ガードボタン)を叩く。

相手の攻撃を全て弾きで返せるようになると、もはや移動はほとんど必要なくなる。ジャンプもダッシュもほぼ必要ない。敵に密着して棒立ちのまま、ただタイミング良くガードボタンを押し、反撃チャンスには攻撃ボタンを押し、リズムを奏でるリズムゲーとなるのだ。

他のリズムゲーと違うのは、ただ上から落ちてくる味気ない棒のようなものにタイミングを合わせてボタンを押しているのではなく、こちらを殺す気で襲いかかってくる敵の剣に合わせているところだ。

この違いはかなり大きい。緊張感が違う。恐怖感が違う。上手く合わせられたときの快感が違う。2周目でこの快感に目覚めると、全ての敵に対して、安全策のヒットアンドアウェイ戦法ではなく、弾きを主体とした短期決戦を挑みたくなるのだ。

これはいわゆる「魅せるプレイ」とも言える。ヒットアンドアウェイでちくちく戦うより、真っ正面から斬り合う方が格好いい。そして楽しい。たとえ見せる相手がいなくてもだ。

SEKIROは、あえてリスキーな、弾きを主体とした戦いが快楽となるように作られている。その快楽に気付けるように、周到に設計されている。これは、プレイ時間の長さに比例して自キャラの能力が上がるタイプのゲームでは絶対に味わえない類の快楽だ。

プレイの質に比例して、プレイヤー自身のスキルが上がるリズムゲー。それがSEKIRO。

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