見出し画像

【書物の危機】電子書籍の発達に思うこと~紙の書籍・実店舗の存在意義とは何か~

当ブログでの書籍関係の記事は、本の紹介がメインである。が、そもそも論として、電子書籍やネット販売が台頭した昨今における「紙の書籍及び実店舗」の意義についてはまだ語っていなかった。近年は大型書店ですら閉店する時代だが、その背景には電子書籍やネット販売の台頭があるとされている。因果関係は立証できないが、相関関係があることはほぼ間違いないだろう。このまま電子書籍が発展すれば、紙の書籍は無くなってしまうのか、それとも残るのか。そもそも、紙の書籍は何のために存在しているのか、今回はその点を語ろう。

電子書籍の利点はやはり、場所を取らないことであろう。紙の書籍は買えば買うほど場所を圧迫してしまう。書物狂と呼ばれる程の大蔵書家になると、本の重さで床が落ちるなんて話も聞くくらいだ(実際どうなのかは不明だが)。しかし、書籍という実体がない電子書籍ではそうした心配はいらない。携帯可能な小型デバイスに、必要な書籍の記述内容を集約できるからだ。
ただ、これは電子書籍の利点であると同時に、欠点でもある。
書物の内容自体は、電子書籍も紙の書籍も同じだが、前者は実体がないゆえ、いざという時に参照できない可能性も出てくる。スマホやパソコンに入れている場合、電池やバッテリーが切れてしまうと使えない。紙の書籍には電池もバッテリーもないので、極端に水に濡れたり破損したりでもしない限り、使えなくなることはない。
これは音楽視聴をYoutubeに依存しきっている場合のネット環境とCDの関係に似ている。ネット回線が混雑あるいは切断されるとYoutubeで音楽を快適に聴けないが、CDなら電源さえあれば聴くことができる、という具合だ。

電子書籍の場合、サービスが終了した時点で読めなくなる可能性も考慮しておかねばなるまい。そうなったとき、すべて電子に依存していれば、手持ちの書籍は無くなってしまう。そうしたことを踏まえてコピー&ペーストしておくという手もあるが、手間の関係上全文というわけにはいかないだろうし、評論なんかは重要な点を要約して一部まとめておけばよいかもしれないが、些細な描写が重要であり、基本的に全文を必要とする小説なんかだとコピペも厳しそうである。実体がないゆえに場所を取らないが、実体がないゆえに存在の基盤が弱いといえよう。
ということは、いささか逆説的な話にはなるが、今後電子書籍がますます発展し、紙の書籍やそれを売る実店舗が斜陽になっていくことを考えたとき、入手しにくくなる当の紙書籍の価値は、高まっていくことになるだろう。それは何も絶版になった本だけでない。紙の書籍=実書籍が売れないから店を閉める、という理屈で実店舗がなくなっていけば、本の入手方法は限られていく。ネット販売も可能だが、現物の確認ができない点、プレミアがついてしまう可能性、昨今の物流問題から頼んでもすぐに届かない点など、無視し難い欠点も想定される。やはり何だかんだいって、実店舗にパッと行ってパッと買えるというのは、侮れない強みだと言えよう。
大型書店ですら撤退するとなると、小規模書店はさらなる苦戦が予想されるが、そうした小規模書店こそレアな本を扱っていたりする。未来予知できるわけでもない筆者の予測など、書いたところでしょうがないかもしれないが、敢えて書くと、ブックオフの台頭がここにきて致命的ダメージを与える危険性も否定できない。
筆者本人はブックオフをよく利用するし、便利だと思う。だが、古本の価値保存という意味において、たとえ希少価値が高くても状態が悪いと買い取らないブックオフの姿勢は、価値ある古本をどんどん消滅させてしまうリスクを秘めている。この点自体は以前から指摘されているが、今後電子書籍に好きな声での音声読み上げ、小説の文章を視覚化する機能などが付与され、ますます便利になっていけば、ますます実書籍が淘汰され、生き残れなくなるかもしれない。そうなったとき、古本の価値を理解している書店が残っていれば救いはあるが、ブックオフしか残っていなかった場合、とどめの一撃となるかもしれない。

私達は本を買う時、本に書いてある情報だけを買うのではなく、その本にまつわる様々な情報、つまり人やシステムをも「買い支えている」のだ。その本を出版し、流通させ、店頭に並べる人々を。実体のある本を買う人がいなくなり、本が単なるデータになれば、書籍に関しては流通や販売の仕事はなくなる。つまり、私達の選択が社会のあり方を変えてしまうのだ。
この記事は電子書籍を完全否定するものではない。冒頭にも書いたが、やはり場所を取らないのはかなりの利点と言える。すべての書籍を所有できない以上、実書籍として持っていなくても構わない本であれば電子化するのも有効な方法だろう。
だが、これは世の常だが、便利になると必ずその裏で何かが失われる。自動車の過剰な発達が鉄道やバスを苦しめたように、電子書籍の過剰な発達が実書籍を駆逐し、書籍を単なるデータにしてしまう可能性もある。
デジタルデータ(電磁的記録)はアナログデータと比べると消失のリスクが低いなどと言われたりもするが、果たして本当か。サイバー攻撃などの可能性も考えると、すべての情報がデジタル化されるのは危険だろう。まあこれ以上話すとSF小説が描くディストピアの話になってくるからやめるが、デジタルの過信は禁物だ。書物におけるアナログ、すなわち紙の実書籍及びそれを支える文化・社会構造は、しっかり支えておかないと後々後悔するのではないかと思う。

店についても、ネットで買えるから実店舗はいらない、という声も一部にはあるだろう。だが実店舗には、興味がなかったものに興味を持つ可能性が秘められている。ネットの場合、「この本を読んだ人はこういう本も買っています」という形で関連書籍の紹介はしてくれるが、(一見)全く関係ない(ように見える)書籍は紹介してくれない。だが、実店舗だとこうした書籍を見つけることができるかもしれない。

みなさんはどう思われますか。
私は多分、死ぬまで本を読む本好き人間であり続けると思うので、紙の本がきちんと読めるような文化・社会を守っていきたいなとは感じています。

いいなと思ったら応援しよう!

荒野の旅人
興味を持った方はサポートお願いします! いただいたサポートは記事作成・発見のために 使わせていただきます!