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【自由詩】ひとつ前の駅で

ひとつ前の駅で降りてみよう
家路を急がず寄り道しよう
子どもの頃は寄り道したかった
知らない路地や公園を求めて
でも今はどうだろう
「早く家に帰りたいから」
では、家に帰って何をしている?
小さな端末に心奪われているだけではないか
いつから君の世界はそんなに狭くなったのか
世界は君が思うより広い
ひとつ前の駅で降りてみよう
その広さを確かめるために

ひとつ前の駅で降りてみよう
そうか、ここに公園があったのか
そうか、ここに喫茶店があったのか
そうか、ここにこんな建物があったのか
今まで知らなかった
車窓から眺めるだけだったから
いや、車窓すらしばらく見ていなかった
小さな端末ばかり夢中になっていた
これからは歩こう
まだ見ぬ景色を探して
ぼくらは冒険者なのだから

ふたつ前の駅で降りてみよう
ああ、家まで遠い
でも、子どもの頃は違った
あの頃はどこまでも行ってみたかった
身体が小さくとも、お金がなくとも、
道が続く限り遠くへ行きたかった
力の限り冒険したかった
あの冒険心はどこへ行ってしまったのだろう
いつからぼくの身体感覚は失われたのか
そうか、乗り物に頼っていたからか
自分の足でなく、乗り物の足で、
町を過ぎ去るだけだったからか
ならば解放しよう
ぼくの黄金の脚を
時速4km、充分な速さだ
これだけあればどこまでも行ける
時速80kmだの130kmは必要ない
速すぎてぼくの冒険機会を奪ってしまう
町は歩くものだ
過ぎ去るものではない

みっつ前の駅で降りてみよう
これはさすがに辛いか
いや、そうでもない
ぼくの内なる冒険心に限界はない
気持ちが続く限り
身体が動く限り
ぼくはどこまでも歩くことができる
そう、これがぼくの強さの源だ
なぜ今まで忘れていたのだろう
「大人」の世界に毒されたか
「そんなことは子供じみてる」
「非効率だ」
と一蹴されて
悪いが、あんたたちの戯言には付き合わない
好きなだけ速い乗り物に乗るがいい
「効率」をとことん追求するがいい
だが、それはぼくには必要ないものだ
ぼくにはこの脚がある
決して強くはないが、信頼に値する脚だ
この脚と共に歩む
失われた時と景色を求めて

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