【短編】小説の種が芽吹く―9ヶ月記念
noteを開始してから、本日で9ヶ月たったのだという。
長いようで短い9ヶ月だった。
異世界を舞台とした恋愛連載小説を4編書き上げ、他無数の短編や読書感想、随筆などを書いてきた。
ちょうど私にとっては、穴に入った状態となっている。この穴に入っていると、多分そのうち抜け出せなくなって、書けなくなるような気もするので、音楽を聴いたり、本を読んだり、動画を見たり、小説を書く以外のことをして、この穴の中に小説の種を育てていきたいのだけど。なかなか芽吹かないんだよなぁ。
「何しているんですか?」
埋めた種に水を与えていると、中学生くらいの男の子と女の子が、私に向かって声をかけてきた。
「見ての通り、水をあげてる。」
「何かここに埋まっているの?」
「そう。君たちは誰?」
私の言葉に、2人はお互い見つめ合うと、男の子の方が口を開いた。
「僕は有森理仁で、彼女が古内莉乃です。」
「理仁君に莉乃ちゃんか。」
2人の名前を口にしながら、私はどこかで聞いたことのある名前だなと思った。
「見たところ中学生っぽいけど、学校は楽しい?」
「楽しい・・ですか?」
理仁君は、私の言葉に首を傾げた。
「今年は高校受験があるので、勉強漬けです。」
莉乃ちゃんが私の問いに答えて、照れたように笑った。
「夏までは部活もありますね。でも、大きな大会はほぼ終わってるし。」
「私も文化祭の時にちょっと声出しするくらいかな。」
彼らの話を聞いていたら、水をあげたところに、芽が出た。
「あ、芽が出ましたね。」
「大きくなったら、綺麗な花とか咲くのかな?」
楽しみにしてます。と口々に言うと、2人はこちらに頭を下げて、手を繋いで帰っていった。
私は2人を見送った後、今度は種に太陽の陽を与えてみる。
先ほど少し芽は出たものの、まだまだ足りない。
「こんにちは。」
振り返ると、そこには明らかに仕事帰りといったスーツを着た男女が立っている。
今日は来訪者が多いなと思いつつ、私は先ほどと同じように問いかける。
「貴方たちは誰?」
「それは貴方のほうが知っているのでは?そうですね・・如月と神無と呼んでください。」
男性の方が如月、女性の方が神無というそうだ。2人は私が太陽を当てている地面を楽しそうに見つめている。
「2人は恋人同士?」
「はい。」
「付き合ったばかり?」
「付き合い始めて数か月経ってますね。」
2人の間には、付き合ってそれほどたっていない頃の、初々しさというか濃密感というか、相手の事しか見えていない感じの、恋愛の一番濃い雰囲気が滲み出ていた。
私としては、それが羨ましくなる。
「羨ましいね。私にもそういう相手がいればいいのに。」
「幾らでも、そんな相手を貴方は生みだせるでしょう?」
如月が笑う。そんなことは分かっているけど、それは現実ではない。
そういえば、私が小説を書き始めたきっかけは、現実を小説の中で良いように変えたかったからだった。例えば、好きな人に告白もできなくて別れてしまったら、その人と付き合っている自分のクローンを、小説の中に登場させる。小説の中では、特徴のない平凡な自分でも、立派な登場人物、主人公になり得るのだ。
「私のことを恨んでいる?」
「恨んでいませんよ。貴方のおかげで私は彼に会えましたから。」
神無がそう言って、如月を振り仰いで微笑んだ。
2人の幸せそうな様子を眺めていると、またいくつかの芽が芽吹いた。
「もう、俺たちは貴方に会うことがあるかどうか分かりませんが、何かあれば連絡ください。」
「はい。彼と2人で待っています。」
2人は腕を組んで帰っていく。私はその後ろ姿を見つめて、軽くため息をついた。
水もあげたし、陽も与えた。後、必要なものって何だろう?
取り合えず、声掛けでもしてみようか。
「お~い。早く大きくなれ。」
「何をやっているのだ。そなたは。」
後ろから呆れたような声がかかった。
プラチナブロンドの髪に赤い瞳の青年が、水色の髪に青い瞳の少女を伴っている。実際に目にするとこんなにカラフルなのか。
「貴方たちは・・。」
「私はカミュスヤーナ。彼女はテラスティーネだ。」
私が最後まで言葉を告げる前に、青年が名乗った。隣で少女がコクリと頷く。
「いつになったら、私たちは行動にうつせるのだ。いい加減、退屈過ぎて飽いた。」
カミュスヤーナって、こんな性格だったっけ?若干弟に毒されていないか?
「カミュスヤーナ。あまり困らせてはダメです。」
テラスティーネが、彼の袖を引いて、諭す。
「この芽が出て、大きくならないと。どうにもなりません。」
私が慌ててそう答えると、彼は芽に向かって、右手を翳した。
「なら、魔力を与えて成長を促せばいいではないか。」
「いやいや、魔力を与えても成長しないし。それに無理やり成長させてもいい物にはならないから。」
「そなたは、自分が生み出すものがいい物だと思っているのか?」
「思ってないけど!それでも見てくれる人がいるから、リアクションをくれる人がいるから、私は生み出し続ける!」
息を荒げて、彼に向かって叫ぶと、彼は私の顔を見つめた後、その端正な顔を優しげに崩した。
「何だ。理解しているではないか。」
私はその優し気な笑みに、口を開けて見入った。
「カミュスヤーナは、貴方様に期待されているのですよ。」
今後ともよろしくお願いいたしますね。と彼女はふんわりとした笑みを見せる。美男美女2人の笑顔はとても目の保養になる。
私の後ろで芽が次々と成長していった。
誰もいない穴の底で、私は種を植え、水を与え、陽を与え、声掛けをする。
種は芽吹き、成長し、大きな綺麗な花を咲かせる。
その花を摘み取って、私はニンマリと笑ってしまうのだった。
終
◇有森・古内シリーズはこちらから
◇如月・神無が登場する「片側だけで感じる彼・彼女」はこちらから
◇カミュスヤーナ、テラスティーネが登場する連載小説はこちらから
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