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【短編小説】歩け歩け、その先へ

夜に延々と歩いたことはあるだろうか?
私は何度かある。
何回かは必要に迫られて、だけど。

必要に迫られて歩いたのは、純粋に電車がなかったからである。

会社の忘年会を行って、その後、仲のいいメンバーで2次会、3次会と行っている内に、終電がなくなった。正確に言うと、終電には乗ったのだが、それが私の自宅の最寄り駅まで行かなかった。確か、4、5駅手前で終点になってしまったのだ。

駅のタクシー乗り場は、人の列ができ、しかもその時はまだ働き始めて、そうは経っていなかったから、お金の持ち合わせもなかった。
バスはもちろん、もう走っている時間ではなかったし、私の最寄り駅まで行くバスがまずなかった。
そこで、夜の道、それもできるだけ、車通りが激しい明るい道を選んで、歩くことにした。

終電がその駅に着いた時には、夜中の12時をとうに回っていたから、自宅に着いたのは明け方だった。3時間くらい歩いたような気がする。
後で3次会を一緒した会社のメンバーに話したら、女性が夜一人で歩くなんてと怒られた。でも、誰にも声はかけられなかった。本当に。

そもそも、誰も歩いていなかった。歩いて帰ろうとする数奇すうきな人は、私以外はいなかったのだろう。

それ以外でも、電車の人身事故で、電車が途中から折り返し運転になって最寄り駅まで行かないということもあった。その時も夜歩いて帰っている。
このところは、在宅勤務になって、電車通勤することが減ってしまった。
だから、夜歩くことは、なくなってしまった。

夜、ただ無心で歩いて家に帰るのって、それなりに楽しいと思う。
できれば、冬の寒い時がいい。自分に気持ちが向けやすいし、何より空気が澄んでいて気持ちいいから。

それに・・彼は元気だろうか?

一人で歩いている時に、ふと振り返ると、一人の男性が笑いかけてきたものだった。最初は、なに?ストーカー?って思ったけど、歩いている私から、いつも同じ距離分離れて、ついてきているみたい。
その男性はいつも同じ人物だけど、彼はただ微笑んでいるだけだ。思い切って話しかけてみようかと思ったこともあるけど、勇気は出なかった。

彼は、私が一人で延々と歩いている時に、振り返らないと会えない。そして、振り返ったまま歩いてみると、彼はその場にとどまったままだ。私以外の人がいる時には現れない。手を振ったら、嬉しそうに手を振り返してくれるのに、私が近づこうとすると、彼が距離を取るのも、よく分からなかった。このところは、会うことがないけど、またいつか会えるだろうと、思っている。

そんなことを考えて、この文章を書いていたら、後ろから肩を叩かれた。

え、なぜ今ここにいるの?今は夜ではないし、私は一人で歩いてもいないよ。まったく会えなくなったから、寂しくなったって?貴方は喋れたんだね。私、前に会った時に話しかけたけど、答えてくれなかったでしょ?もう、夜中に一人で歩くのは危ないって、家族から心配されているんだから、無理だよ。え、一緒に歩いてくれるって?そもそも、貴方のこと、他の人には見えてるのかな?私の空想上の人物だったりしない?それに、私は貴方の名前も知らないし。これから一緒に歩いたら教えてくれるの?まだ、外も明るいから大丈夫だろうけど。あ、ちょっと待ってよ。置いていかないで。

一緒に歩いてくれる相手はいなくても構いませんが、夜、外を歩くことは好きです。

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