幼児教育を充実させるための国の施策たち
現在、2021年1月に中央教育審議会から「令和の日本型学校教育」という答申が提出され、下の図のように「全ての子供が 格差なく 質の高い学びへ 円滑に接続」する社会を構築するために様々な方面で教育に関する議論が進んでおり、その一つとして、「幼児期からの学びの基盤づくり」についても議論されています。
教育基本法において幼児教育は「生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なもの」として示され、世界の早期教育の潮流もあり本格的な議論が進んでいくことになりました。
今後の幼児教育の全体構造は「幼児教育スタートプラン(仮称)」という構想で示されており、この項目の一つなる幼児教育と小学校教育の円滑な連携について議論する「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会(以下、特別委員会)」の設置が先日公表されました(2021年7月8日)。
今回は、幼児教育スタートプランと幼児教育に関する現状にふれていきたいと思います。
1.幼児教育スタートプラン(仮称)のイメージ
実は、幼児教育スタートプラン(仮称)に関する詳細な記述は、文部科学省のどこを探っても上のイメージ以上の情報は出てきません。この図は2021年5月14日に萩生田文科相が、第6回経済財政諮問会議で提出した資料の中に記載されていたものになります。このイメージに対して、萩生田文科相は、以下のように諮問会議で報告しています。
全ての子供が格差なく質の高い学びへ接続する観点では、教育開始年齢の早期化が世界の潮流であり、好奇心や粘り強さなどの非認知能力を幼児期に身につける機会の提供など、全5歳児の生活・学習基盤を保障する幼保小の架け橋プログラムの推進等の幼児期からの学びの基盤づくりを進めていく。加えて、質の高い教育の基盤として、教師等の指導体制の充実・質向上、専門人材の活用、学校施設の計画的・効率的整備を進めていく。
(第6回経済財政諮問会議 議事要旨より)
全5歳児と言う表現をしていますから、文科省が管轄する幼稚園だけでなく厚労省が管轄する保育園も含めた構想だとみて良いでしょう。そのための動きとして「子ども庁」の動きも出てきているのだと思います。
2.幼児教育をめぐる課題感
幼児教育スタートプラン(仮称)を実現するために現在議論されている課題が大きく分けて二つあります。「保護者の就労状況に関すること」と「幼児教育の質の向上」についてです。
◆保護者の就労状況に関すること
幼稚園と言えば、満3歳児になると入園し、朝迎えにきてお昼すぎには帰ってくるという印象ですが、現在、満3歳未満児の保育を実施している幼稚園は全体の67.0%あり、在園児の預かり保育を実施している幼稚園は全体の87.8%あるそうです。かく言う筆者の息子が通う幼稚園も両方実施しています。
このような状況を踏まえて、文科省ではユーザー目線で必要な開設日や開設時間が確保されているか等について検討を行うとともに、引き続き、認定こども園への移行を希望する幼稚園への支援を図るなどして、地域や就労世帯の実情に応じた、よりきめ細かな対応を促進する方向を検討していくそうです。
◆幼児教育の質の向上について
幼児教育の質を向上するためには、様々な要因が関係してきますが、まずは「全ての施設で目指すべき教育を行うこと」と、「教育を担う保育者への支援」についての議論が進められています。
OECDの調査では「3〜4歳の家庭環境」と「教育の質」が、小学校1〜2年生の好奇心・粘り強さといった「育ち・学びを支える力」に差が出ていると言うエビデンスが示されており、全ての子どもたちが格差なく、質の高い学びを享受できる環境づくりが急務であるとしています。
この質の高い学びを目指すためになくてはならない存在が、教育を担う保育者の存在です。
実は、日本における幼稚園教諭の平均勤続年数は約7年で、アメリカの調査では、10年以上の経験のある保育者が子供の将来を改善すると言う結果が出ているそうです。また、幼稚園教諭の68%が二種免許状取得者(短大卒程度)となっており、OECDの9カ国調査でも最終学齢が大卒程度の保育者の割合は、17.7%と日本が最も低い結果になっています。日本の次に低いイスラエルであっても46.2%と言う結果となっていました。
一方で、保育者側のアンケートをとってみると、保育者が感じる給与と社会的な評価への満足度は22.6%と9カ国中2番目に低い結果となっています。園長への調査においても保育者不足が最大の課題として挙げているのが日本の幼児教育の現状のようです。
3.「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」
2で示した課題感はありますが、幼児教育で教育の質向上を目指していくのであれば、その取り組みが小学校への学びにうまく連携できなければ大変勿体無いになります。そのようなことが起こらないように幼児教育と小学校教育にの円滑な連携のための取り組みを議論する「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」が発足されることになりました(2021年7月8日公表)。
まだまだ詳細な情報が出ていないので、下記に概要だけまとめました。
中央教育審議会 初等中等教育分科会
幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会の設置について(案)
設置の目的
幼児教育の質的向上及び小学校教育との円滑な接続について専門的な調査審議を行うため、初等中等教育分科会に「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」(以下「特別委員会」という。)を設置する。
主な検討事項
(1)生活・学習基盤を全ての5歳児に保障するための方策
(2)各地域において幼児教育を着実に推進するための体制整備
(3)保護者や地域の教育力を引き出すための方策、保育人材の資質能力の向上といった幼児教育の質的向上及び小学校教育との円滑な接続を図る上で必要な事項
(4)その他