構造力学メモ(その1) 3次元の主応力とミーゼス応力

1.はじめに

2次元の主応力は2次方程式を解けばいいので、だいたいどの弾性体力学や材料力学の教科書にも載っているが、3次元の主応力は3次方程式を解かないといけないので、教科書には載っていないことが多い。

しかし、3次元の主応力を求めると、実は3次元の主応力は平均応力と偏差応力の第二不変量(≒ミーゼス応力≒八面せん断応力)で表されることが分かり、3次元の主応力とミーゼス応力に関係が深いことが分かる。

そもそも、単純に3次元の主応力がどうなるのか、教科書やネット上にあまり出てこないので、メモ代わりにここに書いておこうと思う。

2.3次元の主応力を求めるための3次方程式

3次元の主応力を求める式は、以下の固有値方程式を解けばいい。

$$
\vert \sigma_{ij}-\sigma\delta_{ij}\vert =
\begin{vmatrix}
\sigma_x-\sigma & \tau_{xy} & \tau_{xz} \\
\tau_{yx} & \sigma_{y}-\sigma & \tau_{yz}\\
\tau_{zx} & \tau_{zy} & \sigma_{z}-\sigma
\end{vmatrix}=0
$$

ただ、次の偏差応力テンソルの固有値を求める方が少し簡単である。偏差応力テンソル$${s_{ij}}$$は、応力テンソル$${\sigma_{ij}}$$から平均応力$${\sigma_m}$$を引くことで求められる。

$$
\vert s_{ij}-s\delta_{ij}\vert =
\begin{vmatrix}
s_{xx}-s & s_{xy} & s_{xz} \\
s_{yx} & s_{yy}-s & s_{yz}\\
s_{zx} & s_{zy} & s_{zz}-s
\end{vmatrix}=0
$$

$$
\sigma_m=\frac{\sigma_x+\sigma_y+\sigma_z}{3}
$$

$$
[s_{ij}]=[\sigma_{ij}-\sigma_m\delta_{ij}]=
\begin{bmatrix}
s_{xx} & s_{xy} & s_{xz} \\
s_{yx} & s_{yy} & s_{yz}\\
s_{zx} & s_{zy} & s_{zz}
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
\sigma_x-\sigma_m & \tau_{xy} & \tau_{xz} \\
\tau_{yx} & \sigma_{y}-\sigma_m & \tau_{yz}\\
\tau_{zx} & \tau_{zy} & \sigma_{z}-\sigma_m
\end{bmatrix}
$$

以下の行列式を頑張って計算すると

$$
\begin{vmatrix}
s_{xx}-s & s_{xy} & s_{xz} \\
s_{yx} & s_{yy}-s & s_{yz}\\
s_{zx} & s_{zy} & s_{zz}-s
\end{vmatrix}
$$

$$
\begin{align*}
=&(s_{xx}-s)(s_{yy}-s)(s_{zz}-s)+s_{xy}s_{yz}s_{zx}+s_{xz}s_{zy}s_{yx}\\
&-s_{yz}s_{zy}(s_{xx}-s)-s_{zx}s_{xz}(s_{yy}-s)-s_{xy}s_{yx}(s_{zz}-s)\\
\\
=&-s^3+(s_{xx}+s_{yy}+s_{zz})s^2+\\
&+(s_{xy}s_{yz}+s_{yz}s_{zy}+s_{zx}s_{xz}-s_{xx}s_{yy}-s_{yy}s_{zz}-s_{zz}s_{xx})s\\
&+(s_{xx}s_{yy}s_{zz}+s_{xy}s_{yz}s_{zx}+s_{xz}s_{zy}s_{yx}-s_{yz}s_{zy}s_{xx}-s_{zx}s_{xz}s_{yy}-s_{xy}s_{yx}s_{zz})\\
\\
=&-s^3+J_1s^2+J_2s+J_3\\
\\
=&-s^3+J_2s+J_3
\end{align*}
$$

ここで、固有値方程式の各係数$${J_1,J_2,J_3}$$は偏差応力の不変量であり、それぞれ以下のようになる。

$$
\begin{align*}
J_1=&s_{xx}+s_{yy}+s_{zz}\\
=&\sigma_x-\sigma_m+\sigma_y-\sigma_m+\sigma_z-\sigma_m\\
=&\sigma_x+\sigma_y+\sigma_z-3\sigma_m=0
\end{align*}
$$

$$
J_2=s_{xy}s_{yx}+s_{yz}s_{zy}+s_{zx}s_{xz}-s_{xx}s_{yy}-s_{yy}s_{zz}-s_{zz}s_{xx}
$$

$$
\begin{align*}
J_3&=s_{xx}s_{yy}s_{zz}+s_{xy}s_{yz}s_{zx}+s_{xz}s_{zy}s_{yx}-s_{yz}s_{zy}s_{xx}-s_{zx}s_{xz}s_{yy}-s_{xy}s_{yx}s_{zz}\\
&=
\begin{vmatrix}
s_{xx} & s_{xy} & s_{xz} \\
s_{yx} & s_{yy} & s_{yz}\\
s_{zx} & s_{zy} & s_{zz}
\end{vmatrix}
\end{align*}
$$

第二不変量$${J_2}$$については、第一不変量$${J_1}$$の2乗と比較して、

$$
\begin{align*}
(J_1)^2=s_{xx}^2+s_{yy}^2+s_{zz}^2+2s_{xx}s_{yy}+2s_{yy}s_{zz}+2s_{zz}s_{xx}=0\\
\\
-s_{xx}s_{yy}-s_{yy}s_{zz}-s_{zz}s_{xx}=\frac{1}{2}s_{xx}^2+\frac{1}{2}s_{yy}^2+\frac{1}{2}s_{zz}^2
\end{align*}
$$

$$
\begin{align*}
J_2=&\frac{1}{2}s_{xx}^2+\frac{1}{2}s_{yy}^2+\frac{1}{2}s_{zz}^2+s_{xy}s_{yz}+s_{yz}s_{zy}+s_{zx}s_{xz}\\
=&\frac{1}{2}(s_{xx}^2+s_{yy}^2+s_{zz}^2+s_{xy}s_{yx}+s_{yx}s_{xy}+s_{yz}s_{zy}+s_{zy}s_{yz}+s_{zx}s_{xz}+s_{xz}s_{zx})\\
=&\frac{1}{2}\sum_{i=1,j=1}^3 s_{ij}s_{ji}
=\frac{1}{2}\sum_{i=1,j=1}^3 s_{ij}s_{ij}
\end{align*}
$$

偏差応力の第二不変量$${J_2}$$は、もうちょっと頑張って計算すると

$$
\begin{align*}
J_2=&\frac{1}{2}s_{xx}^2+\frac{1}{2}s_{yy}^2
+\frac{1}{2}s_{zz}^2+s_{xy}s_{yz}+s_{yz}s_{zy}+s_{zx}s_{xz}\\
=&\frac{1}{2}\left\{(\sigma_x-\sigma_m)^2+(\sigma_y-\sigma_m)^2
+(\sigma_z-\sigma_m)^2\right\}+\tau_{xy}^2+\tau_{yz}^2+\tau_{zx}^2\\
=&\frac{1}{2}(\sigma_x^2-2\sigma_x \sigma_m+\sigma_m^2
+\sigma_y^2-2\sigma_y\sigma_m+\sigma_m^2
+\sigma_z^2-2\sigma_z\sigma_m+\sigma_m^2)+\cdots \\
=&\frac{1}{2}\{\sigma_x^2+\sigma_y^2+\sigma_z^2-2(\sigma_x+\sigma_y+\sigma_z) \sigma_m+3\sigma_m^2\}+\cdots \\
=&\frac{1}{2}\{\sigma_x^2+\sigma_y^2+\sigma_z^2-6\sigma_m^2+3\sigma_m^2\}+\cdots \\
=&\frac{1}{2}\{\sigma_x^2+\sigma_y^2+\sigma_z^2-3\sigma_m^2\}+\cdots \\
=&\frac{1}{6}\{3\sigma_x^2+3\sigma_y^2+3\sigma_z^2
-(\sigma_x+\sigma_y+\sigma_z)^2\}+\cdots \\
=&\frac{1}{6}\{3\sigma_x^2+3\sigma_y^2+3\sigma_z^2
-\sigma_x^2-\sigma_y^2-\sigma_z^2
-2\sigma_x\sigma_y-2\sigma_y\sigma_z-2\sigma_z\sigma_x\}+\cdots \\
=&\frac{1}{6}\{2\sigma_x^2+2\sigma_y^2+2\sigma_z^2
-2\sigma_x\sigma_y-2\sigma_y\sigma_z-2\sigma_z\sigma_x\}+\cdots 
\end{align*}
$$

カッコの中身を高校数学の不等式の証明でよく見かける変形をすると、よく見かける形になる。

$$
J_2=\frac{1}{6}\{(\sigma_x-\sigma_y)^2+(\sigma_y-\sigma_z)^2
+(\sigma_z-\sigma_x)^2\}+\tau_{xy}^2+\tau_{yz}^2+\tau_{zx}^2
$$

つまり、固有値方程式は以下のようになる。

$$
s^3-J_2 s-J_3=0
$$

3.3次の固有値方程式を解く

3次方程式を解く方法としては、カルダノ・タルタリアの公式や方法が有名だが、ここではコサインの3倍角の公式を利用するビエタの公式を使う。

というのも、応力テンソルは対称テンソルであり、偏差応力テンソルも対称テンソルになる。対称テンソルの固有値は、実数になることが知られており、カルダノ・タルタリアの公式は、3実数解をもつ時は扱いが多少ややこしいので、ビエタの方法を使用する(ちなみにカルダノ・タルタリアの公式の考え方でも計算してみたが、ビエタの方法よりもかなりスペースを食ってしまったので、機会があれば記事にするかもしれない)。

3倍角の公式を変形すると

$$
\begin{align*}
\cos3\alpha&=4(\cos\alpha)^3-3\cos\alpha \\
(\cos\alpha)^3-\frac{3}{4}\cos\alpha-\frac{1}{4}\cos3\alpha&=0
\end{align*}
$$

固有値方程式の$${s}$$ を下記のように仮定して、代入する。

$$
s=\rho \cos\alpha
$$

$$
\begin{align*}
(\rho\cos\alpha)^3-J_2\rho\cos\alpha-J_3 &=0 \\
(\cos\alpha)^3-\frac{J_2}{\rho^2}\cos\alpha-\frac{J_3}{\rho^3} &=0
\end{align*}
$$

この式と3倍角の公式の係数を比較すると、

$$
\frac{J_2}{\rho^2}=\frac{3}{4},  \frac{J_3}{\rho^3}=\frac{1}{4}\cos3\alpha
$$

$$
\begin{align*}
\rho & =\frac{2}{\sqrt{3}}\sqrt{J_2}=\frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\\
\cos3\alpha & = \frac{4J_3}{\rho^3}=4J_3\frac{3\sqrt{3}}{8\sqrt{(J_2)^3}}=\frac{3\sqrt{3}J_3}{2\sqrt{(J_2)^3}}
\end{align*}
$$

このコサインの方程式は、コサインの逆関数で求めることができる(ちなみに3倍角の公式にカルダノ・タルタリアの公式を使えば、1/3倍角の公式を各係数の四則演算や累乗根で表すことができそうだが、それはできないことがすでに証明されているとか)。

$$
\theta=\frac{1}{3}\arccos\left(\frac{3\sqrt{3}J_3}{2\sqrt{(J_2)^3}}\right)
$$

$${\alpha}$$の範囲は0°~360°(本当は0°~180°)なので、$${3\alpha}$$は0°~1080°の範囲となり、解は以下の3つとなる。そして、3次方程式なので、これですべての解を網羅できることになる。(コサインの逆関数なので、$${\alpha}$$の範囲は0°~180°で十分だが、その時の解が多少面倒なので、ごまかしてこのようにしている。ちゃんとコサインのグラフを書いて求めればいいだけだが。)

$$
3\alpha=3\theta,3\theta+360\degree,3\theta+720\degree
$$

$$
\alpha=\theta,\theta+120\degree,\theta+240\degree
$$

そして、偏差応力の固有値は、以下のようになる(解は、最大値から並ぶようにしている)。

$$
s=\frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos\theta,   \frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos(\theta+240\degree),   \frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos(\theta+120\degree)
$$

コサインの性質から以下のようにもなる。

$$
s=\frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos\theta,   \frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos(\theta-120\degree),   \frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos(\theta+120\degree)
$$

4.偏差応力の固有値から応力の固有値に変換

偏差応力から普通の応力にするには平均応力を足せばいいだけなので、3次元の主応力は以下のようになる。

$$
\begin{align*}
\sigma_1 &=\sigma_m+\frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos\theta\\
\sigma_2 &=\sigma_m+\frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos(\theta-120\degree)\\  \sigma_3 &=\sigma_m+\frac{2}{3}\sqrt{3J_2}\cos(\theta+120\degree)
\end{align*}
$$

さらに偏差応力の第二不変量をミーゼス応力(相当応力)$${\sigma_{eq}}$$や八面せん断応力$${\tau_{oct}}$$で表せば、以下のようになる。

$$
\sigma_{eq}=\sqrt{3J_2},   \tau_{oct}=\frac{\sqrt{2}}{3}\sigma_{eq}=\sqrt{\frac{2}{3}J_2}
$$

$$
\begin{align*}
\sigma_1 &=\sigma_m+\frac{2}{3}\sigma_{eq}\cos\theta\\
\sigma_2 &=\sigma_m+\frac{2}{3}\sigma_{eq}\cos(\theta-120\degree)\\  \sigma_3 &=\sigma_m+\frac{2}{3}\sigma_{eq}\cos(\theta+120\degree)
\end{align*}
$$

$$
\begin{align*}
\sigma_1 &=\sigma_m+\sqrt{2}\tau_{oct}\cos\theta\\
\sigma_2 &=\sigma_m+\sqrt{2}\tau_{oct}\cos(\theta-120\degree)\\  \sigma_3 &=\sigma_m+\sqrt{2}\tau_{oct}\cos(\theta+120\degree)
\end{align*}
$$

5.まとめ

3次元の主応力を3次方程式を解いて、計算すると、平均応力と偏差応力の第二不変量、ミーゼス応力(相当応力)や八面せん断応力で表されることが分かる。

偏差応力の第二不変量や、ミーゼス応力(相当応力)や八面せん断応力は、教科書などでは、ややいきなり導入されて、よく分からないイメージしにくいものだが、3次元の主応力と深い関係がある量であることが分かり、イメージがわきやすいのではないだろうか。

(2022/4/20 式の書き直し)

その2


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