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こわれたままで帰ってきてね。

珊瑚の、貝殻の敷き詰められた浜を歩いて、そのしゃらしゃらと骨がぶつかるような音が綺麗で、自分の足を上げた時の音に耳を澄ませた。

それが、きれいで、かなしくて、さびしくて、ここには死が流れ着いて降り積もっていて、静かで、安心だ、と思った。

かろやかな、金属とも言えないあの音は、透明で綺麗で
なんとも言えなくて、他ににている音もない。
ずっと書いて送ろうとしていたのに、忘れていたこと。



今朝は、娘を習い事に送って
「あなたのための短歌集」木下龍也 という本を読んでいる。
それぞれ購入した依頼者からメールでお題をもらって、短歌を作って便箋で送り、というものの集積。
浜辺に貝は多すぎて、いちど拾わずに通り過ぎたり、落としてしまったものを再び見つけるのは、砂漠で同じ砂を見つけるのと同じくらい難しく、ほぼ不可能で

その一期一会の、それぞれの小さな出会い、みたいなものと同じような感覚を、この本からも受けた。
あなたのための短歌 だから、木下さんの手元には何も残していなかったものたちが、本になることになって(木下さんは、もうその人のためだけのものだから、と印税を受け取らないことを条件に本を出版することにしたそう。その印税も出版社の儲けになっても困りますと担当さんに言われて話し合い、全国の書店でさまざまな歌集を購入する費用に充て、その歌集は短歌の普及のため、希望する施設に寄贈している)

「私だけの短歌です。でも、だれかのための短歌にもなると思います」と「私の短歌」を送ってくれた300首のうち100首、掲載されている。面白いのが、依頼主の送ったテーマにまつわる文章と、短歌がセットになって掲載されていること。
どれも、それぞれ違う悩みだったり、心の襞の細やかな部分の、ほんのわずかな色のような依頼なのに、それに応えてゆく木下さんの天才さと
それを、読んでいる第三者の私にも、「この感覚知っている」と思える歌が多くて、とても良かった。

日だまりの菜の花の絵を描くためにひとりの夜の色を集める

図書室には、短歌の本、あるのかな、とてもおすすめの本です。機会があったら読んでみてほしいな。

先生は光の当たらない面を見つめるための時間をくれる

宝箱あけっぱなしにしておくよこわれたままで帰ってきてね


浜辺に降り積もる珊瑚や貝、魚の死骸にカツオノエボシ、流れ着いたもの
そこを子どもたちがはしゃぎながらかけていって
時折波に引かれそうになりながら動く貝はヤドカリで
死者の堆積の上に生きている、と思った。




この感覚、伝わるかなぁ、伝わらないかな。それは寂しいけど安心な感じなのです。

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