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DUNE 砂の惑星 ポールの成長物語

イラストはこちらより。

今更ながら砂の惑星(新訳版)上中下を読んだので感想を書く。
下でうだうだ言っているけど、要はDUNEオモレー!から小説も映画PART2も見てくれよな、ゼッテェ!ということです。


DUNEの三大要素を挙げると
①成長物語
②SF
③環境主義への関心
 であると思うが、今回は①について。(たぶん①だけで終わるというか『ミストボーン 灰色の帝国』にハマりはじめたので心がそっちに行きたがってる)

この記事にかかる時間 3.8分





 「常識を疑う力」、「枠組みに疑念を呈する力」をSFに通底する要素[1]とするならば『デューン 砂の惑星』にはどのようなそうした力が描かれているだろうか。

 結論から言えばそれは与えられた未来を、歩んで当然と提示されるような道筋を疑い抜き、自らを書き換えていく力である。

『砂の惑星』とは一言で言ってしまえば“貴種漂流譚”である。貴い家系の出の者が多くの場所を旅し成長するということだ。

 その点で主人公の道程はビルドゥングス・ロマン(教養小説)であろうし、ウラジミール・プロップが述べたロマンス的冒険譚の被害者型(①悪の台頭により世界の均衡が崩れる→②主人公のコミュニティが被害を受け旅に出ざるを得なくなる→③旅先でアイデンティティを獲得し、安定した故郷で暮らす)に当てはまるだろう。

 赴く場所ごとに主人公ポール・アトレイデスには様々な名前、そして役割が提示される。しかし、その裏には必ず他者の思惑がある。正に、「プロットの中のプロットの中のプロット」、その中に仕組まれた「フェイントの中のフェイントの中のフェイント」が渦巻く網目構造の中で主人公は役割を押し付けられるのである。

 が、ポールそのいずれに対しても無闇に従おうとはしない。結果的にそうなってしまうことは別として。

 まずベネ・ゲセリットの教母ガイウス・ヘレネ・モヒアムは、ゴム・ジャッバールの試練(心理的に苦痛を与えることで意識や精神の力を試すもの)を経たポールを見てクイサッツ・ハデラック(道の短縮、縮地の法)を想起する。これはベネ・ゲセリット教団が目的とする遺伝子交配を操作することで生まれる未来視能力を持つ救世主のことである。だがポールはベネ・ゲセリットのただの言いなりのような存在になることを望んだか。否!

「しかし、おれは……断じて……絶対に……こんな老婆などの……いうことはきかぬ!」

『デューン 砂の惑星 [新訳版] 酒井昭伸訳(下) P262 』

 次に、ポールの父でありアトレイデス公爵家当主のレト・アトレイデスがウラディーミル・ハルコンネン男爵の陰謀によって殺されると、ポールはフレメンと呼ばれる砂の惑星アラキスに住む先住民とともに生活し、そこでウス―ル(柱の基部)や、ムアッディブ(アラビア語でeducator, teacherの意味)と呼ばれるようになる。
 アラキス特産の香料メラジンの多量接種によって未来視が可能になったポールは、ムアッディブとしてのこのこ生きることで未来に起こるであろう聖戦、加えてそれによる膨大な死者に思いを馳せ、なんとかこの未来を回避したいと思うようになる。未来が見えたら見えたでまた別の辛さがありそうだ。
 更にフレメンたちの宗教には救世主リサーン・アル=ガイブ(外世界からの声)が信仰され、水を自在に操り乾燥から救ってくれるとして待望されているが、ポールがその救世主だと次第に思われていく。

 
 ここまで挙げたようにポールには複数の名が押し付けられるのである。そのいずれに対しても手放しで受け入れたりなどしない。

 こう言うと話がややこしくなるが、はじめポールは未来に疑念など抱いていなかったのだろう。そもそもポールは順当に行けばアトレイデスの家を継ぐはずであった。
 しかしそうはならなかった。ハルコンネン家や宇宙皇帝のしわざのせいで。アトレイデス公爵家の滅亡によって、ポールが座を継ぐ未来は霧散した。
 その時ポール・“アトレイデス”ではなくなった主人公は何者として生きるのか、その選択は彼の前に無数の広がりをもって打ち捨てられた。

 断っておくがポールは無計画なのではない。計画は行う、けれど全人生が設計通りに行くことなど一度だってあっただろうか。運命のいたずらとしか思えないような力によってどうしようもない状況に遭遇するものである。

 人生設計に沿って過ごしていくことが人生の力のひとつであるなら、行き当たりばったりで逐次修正し、なんとかやり過ごすのも生きる力ではないだろうか。その両方を含む射程をもった彷徨……砂漠……宗教指導者としての成長(物語)。

 その点、ある意味対照的なのはフェイド=ラウサである。彼は、ハルコンネン家の次期当主となる男で、現当主ウラディミール・ハルコンネンの甥である。
 この男はポールと比べると全体的に鈍く、脳足りんで、臨機応変さに欠ける印象を与える。爵位を継ぐという目標に固執するあまり、やりすぎた行動をとってしまう。

 兎に角、臨機応変に生き抜く力、放浪先でぐんと根を張り自らの生活圏を切り拓いていく力である。
 公爵の跡継ぎ→フレメンの一員ウス―ル→宗教的指導者ムアッディブ→救世主リサン・アルガ・イブ→救世主クイサッツ・ハデラックと周りから言われながら、その時点から当然予期されるような道筋を拒絶し、道なき道を拓こうとしたポールの生きる力。

 そういう力が彼を通じて描かれ、見る者の脳裏に焼き付くのである。


[1] https://www.hayakawabooks.com/n/nd25a8ecd0b43 2022/01/31
参照日2023/04/17


Note : Hayakawa Books & Magazines(β)



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