その謎、香りで解決します。/阿部暁子「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ
舞台は鎌倉。恋も、謎も、それぞれが抱える事情も、想いも、香りが優しく包みこむ「花月香房」の物語。
「鎌倉香房メモリーズ」は、全5巻からなる阿部暁子さんのシリーズ小説です。
著者の阿部暁子さんは、漫画や映画のノベライズの他、恋愛小説や時代小説も手掛けています。
本作の主人公は、「人の感情の動きを香りで感じることができる」という不思議な能力をもつ少女・香乃。祖母が営む「花月香房」を手伝う女子高生です。その店でバイトをしているのは、大学生の雪弥。彼は香乃の幼馴染みで、香乃のいちばんの理解者でもあります。香房にやって来るお客の謎を香りで解き明かす、ほっこりミステリーです。
この本はこんな人におすすめ
①ほっこりしたミステリーが読みたい
②淡い恋模様にキュンとしたい
③香道など、和の芸道に興味がある
それでは、この本の魅力を紹介していきたいと思います。
*「香り」がテーマのミステリー
この物語は、「花月香房」にやってくるお客さんの悩みや事情を解き明かすミステリーです。それを解く鍵は、「香り」。
花月香房にあるお香や、香乃の特殊な能力で謎をひも解いてゆきます。どろどろした展開や殺人事件などはないので、「人が死なないミステリーが好き」という方にもおすすめです。
また、シリーズの中では「香道」や「香遊び」などの「お香の文化」にも触れることができます。香道は、茶道や華道などと同じ日本の伝統芸道です。ふくよかな香りを聞き(香道では、お香を「嗅ぐ」ではなく、「聞く」といいます。)、香りを感じ、香りを楽しみ、その香りとの一瞬の出会いに心を傾ける、そんな雅やかな「たしなみ」です。
阿部暁子さんの香りの描写も素敵で、これはどんな香りなのだろう? と想像するのも楽しかったです。もし「花月香房」のようなお香専門店があったら行ってみたい!と思ってしまいます。
*香乃を取り巻く人間模様
香乃と雪弥の淡い恋愛模様も見所です。少し不器用なふたりの関係の変化に、胸キュン必至です。
このふたりの雰囲気からこうさぎが連想したのは、松田聖子さんの「赤いスイートピー」でした。ふんわりした、可愛らしい感じがぴったりです。
また、香乃も雪弥も、それぞれ家庭で事情を抱えており、ふたりの成長や家族との関係の変化も描かれています。
鎌倉が舞台ということもあり、全体的に穏やかな雰囲気の人間ドラマですが、緩急のあるストーリーなので飽きさせず、すらすらと読める点、連作短編で読みやすいところもポイントです。
こうさぎが、このシリーズに出てきたお香の中でいちばん気になったのは、「文香」でした。手紙などに忍ばせることで、香りも相手に贈ることができる、なんとも素敵なアイテムです。
忙しない時間がめまぐるしく流れ去る今、お香のような奥ゆかしい日本文化を堪能するのもいいな、と思いました。
ほっこり優しくて、ほんの少し切ない「香り」ミステリーに、ぜひ浸ってみて下さい、ぴょん!
(2021年4月10日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)
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