WORLD PRESS PHOTO 15
久々に、池袋に来た。
予報では、午前中には雨があがるようだったので、東京芸術劇場で今日からやっている、世界報道写真展を見に来たのだ。
2014年度入賞作の写真も、容赦なく、暴力と、悲しみ、苦しみをとらえている。
胸に、鋭利な刃物を突き立てられるような写真の数々だ。それらが、等間隔に並べられ、見る者の体の奥深くに、強烈な印象を焼きつける。
圧縮された空間のその中で、いくらかでも息をついて見られるのは、スポーツ部門であろう。
その写真は、最初、どういう状況なのだかわかりかねた。説明文を読んで、やっと合点がいった。
何人もの人が、壁と向き合って立っている。そのうちの一人などは、顔面を壁にぴたりとひっつけている。ウィンブルドン選手権の観戦チケットを入手することができなかったので、苦肉の策として、向こう側のテニスボールの音を、耳を澄ませて聞いているのだ。
一通り見て回り、劇場を出ると、空は相変わらずどんよりと曇っていた。
池袋に来たら、俺はいつも中華を食べる。
小さな店が好きで、夫婦で切り盛りしていて、料理を運んでくる奥さんが、赤ん坊を背負っているような店なら、なお良い。
たくさんの重苦しい写真で、すっかり参ってしまった俺は、料理を注文すると目をつむり、背もたれに体をあずけた。
そして、調理場から響いてくるリズミカルな中華鍋の音に、耳を澄ませて聞き入っていた。
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