飛び込んだ瞬間の感触
潜水をする。
25メートルプールの、向こう側まで。
まず、こちら側で、どぼんと垂直に潜ると、壁を力一杯に蹴り、その推進力のみで進んでいく。スピードが落ちてきたら、手と足で、ゆっくり水を掻く。水面には、一度も浮上しない。手が壁に届いたら、顔を出して一息つき、また逆方向へと蹴り出していく。
監視員の不安げな視線が、時折気にはなるが、たとえば、水面でクロールをがさがさやるよりも、水中をこうして潜水で進むほうが、はるかに気持ちが良いのだ。
このプールは、きれいで快適なのだが、強いて欠点をあげるとするなら、飛び込みが禁止なことだ。
もっとも、簡単に足がついてしまうようなこの浅い水深では、危険で飛び込みなどできやしない。
はたして、俺は今でも飛び込みができるのだろうか。泳いでいて、ふと思った。
小学生のころは、夏休みになると海に行き、岩場から、眼下に広がる海面へ、頭から飛び込んだものだ。
夏の、突き刺すような陽光の中、高い岩場のてっぺんから、冷たい海水に勢い良く飛び込む。
あの快くも刺激的な感触が、俺にとっての海なんだ。
今年の夏は、行くかな。海へ。あの岩場へ。
今いるここは、確かになんの変哲もない温水プールだが、すでに俺は、塩辛い海の中を、あの瑞々しい記憶の中を、潜水している。
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