樹の上の夏休み
少年は、樹の上が好きだった。
木登りが好きだったのではなく、ただ純粋に、樹の上が好きだった。
近所の公民館に、本当に大きな、まさに巨木と言っていいほどのマキの樹があり、夏休みなどは、その樹の上で一日を過ごすことも珍しくなかった。
生い茂った枝葉が、心地よい日陰を造り、枝の梢に寝ころぶ少年を柔らかく包み込んでいた。
時折吹く微風は、青々とした葉をかさかさと揺らしながら、少年の頬を優しくなでた。
そこは、とても涼しかった。まぶしいほどの木漏れ日と、やかましい蝉の鳴き声だけが、夏であることを少年に教えていた。
枝の先にポケットサイズのラジオをひっかけて、あふれんばかりの緑の中、読みかけの本をアイマスク代わりに、少年は、思う存分昼寝を楽しんだ。
夏がくるとふと思い出す、ただそれだけの懐かしい情景だ。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?