短編小説「ページの間」
週末、私は古本屋に足を運んだ。
最近見つけたこの店は、狭い路地の奥にひっそりとたたずむ、まるで時間が止まったかのような小さな店だった。
店内に入ると、古書特有の匂いが鼻をくすぐる。
ぎっしりと本が詰まった棚の間を縫うように進んでいく。
「何か面白い本はないかな」
そうつぶやきながら、適当に手に取った一冊。
「人生の岐路」というタイトルに私は目を奪われた。
パラパラとページをめくっていると、一枚の紙が床に落ちた。
「あれ?」
拾い上げてみると、それは古びた手紙だった。
好奇心に駆られて中身を覗いてみる。
そこには、ある男性の人生の転機が綴られていた。
就職を諦めて起業すること。
そして、その決断が人生を大きく変えたこと。
「へぇ...」
興味深く読み進めていると、店主らしき老人が近づいてきた。
その姿は、まるでこの店の歴史そのもののようだった。
『お客さん、その本に興味がおありですか?』
「ああ、中に挟まっていた手紙を読んでいて...」
老人は少し驚いた表情を見せた後、穏やかな笑みを浮かべた。
『それはね、昔のお客さんが残していったものなんですよ』
そう言って、老人は語り始めた。
この古本屋には、長年の間に様々な人生の物語が集まってきたこと。
本の中に挟まれた手紙や写真、メモ。
それらは皆、誰かの人生の一片だということを。
『この本たちは、単なる物語を伝えるだけじゃない。誰かの人生そのものを伝えているんです』
老人の言葉に、私は深く考え込んだ。
「私も...何か残せるのかな」
そうつぶやくと、老人は優しく頷いた。
『お客さん、あなたの物語はまだ始まったばかり。これからどんな頁を重ねていくか、それはあなた次第です』
その言葉に背中を押され、私は「人生の岐路」を購入することにした。
店を出る時、なぜか心の中に何か新しいものが芽生えたような感覚があった。
これから私の人生にどんな物語が待っているのか、小さな期待が胸の内に灯った。