短編小説「朝自棄」
『きょう未明、○○州△▽のアパートで大規模な火災が発生し、付近の住民から911通報がありました。火は約4時間ほどで消し止められましたが、焼け跡から6人の遺体が発見されました。警察と消防は――』
見間違いかと思った。いや、そう思いたかった。
朝のニュースで流れてきたこの映像、……俺の家だ。
妻は……娘は……
嫌な胸騒ぎがして、慌ただしく携帯を手に取った。
『お掛けになった番号は――』
繋がらない。
だけど、きっと大丈夫だ。
私の家族に限って巻き込まれるはずはない。
そう考えてからは少し冷静になれた。
握った携帯から会社に事情を説明し、しばらくは休みをもらった。
周囲を気にすると、着ていたスーツは皺だらけ。
マグカップが不規則に割れ、コーヒーが床を這っていた。
同憂は波のように襲ってくる。
(自分が一人、都心なんかに住んでいなければ……)
気を抜いてはまた、壊れてしまいそうだ。
私は思い立つとすぐに服を替え、家を出た。
こんな心境のまま何もせずにはいられなかった。
急ぎ足で通りを歩きながら、妻と娘の顔が脳裏によぎる。
頼む、無事であってくれ……
そんな願いを主に祈りながら、碌な荷物も持たないまま航空便で現地に向かった。