短編小説「そこに写る宝物」
『先生の宝物は、この箱の中にあります』
朝、先生はそう言って、綺麗に包装された箱を教室に置いた。
それも今日は、5限の時間に“自分の宝物”を発表するという授業があるからだった。
『その時間までは、決して中を覗いてはいけない』
そう忠告されたが、こんな目に見える形で用意されては、嫌でも期待は高まってしまう。
普段、友達とは様々な会話をするものだが、今日限りは一日中、箱の話題で持ち切りだった。
そして迎えた、5限の時間。
発表の順番はくじで決定するらしく、私は“1番”となった。
「私の宝物は“家族”です。理由は――」
発表を終えた。
緊張はしたものの、こんな大人っぽい答えができた自分に、ちょっとだけ得意な気分になった。
クラスメイトは、 “ゲーム”、“ペット” などを挙げていたが、意外にも“家族”という人は多く、自信満々だった自分が、少し恥ずかしくなった。
全員の発表が終わり、いよいよ先生の番がやってきた。
『みんな、すばらしい発表だったね。じゃあ、最後に先生のも見てもらおうかな。じゃあ次は、発表の逆順に一人ずつ前に来てね。席に戻っても、お友達には言わないように』
クラスメイトが順に箱を見に行く。
なぜか皆、中を見てすぐ、先生の方を見て、笑い合っていた。
そして、最後に私の番が来た。
ゆっくりと箱の底を覗いた。
そこには、私の顔が写し出された。
鏡だ。
私は思わず先生を見ると、先生は満面の笑みで私を、私たちを見つめていた。