見出し画像

「失敗は成功のもと」なら、頭の中で人一倍失敗してみる|Gary Klein氏、Harvard Business Review

投資回収への不安

ある方とのコンサルティングの日でした。

彼:あの、今新しいプロジェクトに取り掛かろうとしているのですが、うまくいくのかチームの中で議論になっているんです。
私:なるほど。どんなプロジェクトですか?
彼:新しい改装工事です。
私:どうして不安なのですか?
彼:ええ。自分は結構乗り気なのですが、投資回収までの見通しが具体的に立たず、少しみんなで不安になっているんです。
私:なるほど。それでも、あなたはやりたいんですか?
彼:はい。改装することで、チームにも活気が出ますし、お客様にも喜んでいただけると思います。でも、もしも改装した後でうまく投資分を回収できなかったらどうしようかと少し不安になります。

「始める前に失敗してみる」

今回のご相談は、新しい改装工事をしたいというオーナーと、その投資回収の方法を模索するチームの意見の不一致から始まりました。

この課題を解決するために、今回はアメリカの心理学者 Gary Klein氏の提唱する「プレモータム」という意思決定の手法をご紹介したいと思います。


私:不安になる気持ちはよくわかります。実際、どれだけ意思決定の仕組みの整った企業であっても、投資と回収の問題は一生つきものです。そこで、投資をしたいという前提から、ご一緒に悩みの種を解決できたらと思います。
彼:よろしくお願いします。
私:プレモータムとは、何かプロジェクトを始める前に、その「プロジェクトが大きく失敗した」と仮定して、その失敗の原因を事前に探ることです。
彼:え。失敗した前提で?辛いですね…
私:事前に失敗する前提で誰も行動したくありませんが、そうすることで失敗する可能性をたくさん吟味でき、失敗経験を普段よりもたくさん経験できます。
彼:まぁ、「失敗は成功のもと」と言いますもんね。

エジソンの言葉を最大化する

有名なエジソンの「10000回の失敗」の話や、ビジネスコーチの「失敗を重ねないと先へ進まない」という話を、私たちは何万回と耳にしています。

しかし、実際に何回も失敗することはメリットばかりではありません。特に、自分1人で熱心に取り組む状況であればいいですが、他者を巻き込んだ時は、失敗を続ける訳にはいきません。

そこで活躍するのが「プレモータム」という実践法です。これは、解剖学における「ポストモータム」、「死体解剖・検死」の逆の発想です。

“Unlike a typical critiquing session, in which project team members are asked what might go wrong, the premortem operates on the assumption that the “patient” has died, and so asks what did go wrong.”

「チームメンバーで『上手くいかない可能性』を考える従来の会議ではなく、プレモータムでは既にプロジェクトが死んだ(失敗した)という前提のもとで死因を特定する会議を行います」

Klein, G. (2007). Performing a Project Premortem.
Harvard Business Review

今回の相談において考えてみると、改装工事における投資を回収できるかが不安でした。これは、プロジェクトとして捉えると「改装」という大きなくくりになります。そして、今回のプレモータムでは、この改装プロジェクトが大失敗に終わったという前提で議論を進めます。

私:それでは、改装プロジェクトがうまくいかなかったという仮定に基づいて議論を進めましょう。
彼:はい、お願いします。

第1ステップ:失敗を定義する

私:第1ステップは、失敗とはどういう状況かを明確に定義することです。
彼:なるほど。今回の私の不安で言えば、投資回収が一切できず、資金繰りに苦しみ、挙句倒産するというシナリオかと思います。
私:そうだと思います。今からは便宜上、あなたの会社は倒産したことにします。
彼:かなりキツいですね。笑
私:仕方ありません。大失敗がキツければキツいほどプレモータムの効果が見えてくるというものです。笑

第2ステップ:失敗の原因を探る

私:次に、倒産の原因を探りましょう。どんな原因が考えられますか?
彼:そうですね。こんな感じでしょうか?

【思うほどお客様が来なかった場合】
宣伝が足りなかった
改装したがお客様が気に入らなかった
人手が足りず回転率が低かった

【改装が理由で建物が壊れた場合】

【改装が原因で近所から嫌われた場合】

【改装業者が犯罪を犯して倒産に追い込まれた場合】
大切な機材等を盗まれた
想像以上に多額の額を請求された
工期が長すぎて営業できなかった

彼:という感じでしょうか?
私:いい感じだと思います。

第3ステップ:原因を解決する

私:最後に、その原因一つ一つを解決しましょう。どうすれば原因を避けることができると思いますか?
彼:そうですね。こんな感じでしょうか?

【思うほどお客様が来なかった場合】
宣伝が足りなかった▶︎宣伝プランを立てておく
改装したがお客様が気に入らなかった▶︎改装案がお客さんにウケるであろう理由を見つける
人手が足りず回転率が低かった▶︎改装後の人手確保を先に行う

【改装が理由で建物が壊れた場合】▶︎業者と対話をする、保険をもう一度確認する

【改装が原因で近所から嫌われた場合】▶︎改装を始める前にちゃんと挨拶をしておく

【改装業者が犯罪を犯して倒産に追い込まれた場合】
大切な機材等を盗まれた▶︎改装前に大切なものを管理できる場所へ移動しておく
想像以上に多額の額を請求された▶︎見積書と契約書をしっかり作っておく
工期が長すぎて営業できなかった▶︎現実的な工期予定を立て、さらにプラスアルファで予定を組んでおく

彼:なんだか不安な気持ちが減った気がしますね!ちゃんとこうすれば、大失敗に至る可能性は少なくなるかなと思えてきました!
私:素晴らしいことだと思います。私たちは漠然とした不安に振り回され、正しい決断ができなくなってしまうことが多々ありますので。

最後に:それでも時には失敗する

彼:もうこれで大丈夫ですね!ありがとうございました!!
私:待ってください!まだ大丈夫じゃないですよ。
彼:え?
私:これだけ考えても、失敗をする時は失敗します。新型コロナの時もそうですが、想像外の問題が起きるのがこの世界です。いいですか、今回の改装プロジェクトはそれでも失敗します。
彼:そんなはっきり言わないでください。何か恨みでもあるのかなと思ってしまいますよ。
私:いえ。恨みなど全くありませんよ。プレモータムを最後にさらにプレモータムします。

『プレモータムをプレモータムする』

プレモータムで考えうる失敗の原因には限界があるのです。どれだけ考えても失敗する時は失敗します。

なので、最後に「予期せぬ」問題が出た時にどうするかを考えておきます。

ここで参考にしたいのが、ビル・ゲイツ氏が次の感染症拡大への対策として講じている手法です。

消防隊が火災を初期段階で消すように、感染症を初期段階で食い止める

Gate, Bill. (2022). We Can Make COVID-19 the Last Pandemic.
TED TALKS YOUTUBE

つまりは、予期せぬ問題で「倒産」の可能性が起きたとき、その予期せぬ問題をとてつもなく早く食い止める方法を考えておくことが大切なのです。

私:もしも予期せぬ問題が起きた時、あなたとあなたのチームがその問題を「すぐに」解決する手段を考えておきましょう。何か思いつきますか?
彼:そうですね。例えば火災が起きた時、まずは火消しを試みて、すぐに消防署に電話しますので、ひょっとするとすぐに「相談できる」誰かがいた方がいいのかもしれません。ビジネス119番みたいな。笑
私:それはいいかもしれませんね。そういう方法でいきましょう。ですが、必ず火元には注意して(経営の場合はお客様の評価)、そのあと小さな火の間にできるだけ消火してくださいね。それでもしも消火に遅れたら、信頼できる人にとにかく早く相談するのが良いのではと思います。
彼:わかりました。そのつもりで準備して改装を進めたいと思います。

プレモータムで、たくさん失敗し、危機に備える。

あなたのビジネスでも、プレモータムをぜひ実践してくださいね。そして、想像し得ない問題が起きた時に何ができるのかを考えておく。それは消防隊を呼ぶことかもしれないし、その場からすぐに逃げることかもしれませんし、その火を何かに隔離することかもしれません。あなたなりの解決策をぜひ考えてみてください。

今回の対話のようなコンサルティングは常時お申し込みを承っております。お気軽にInstagramよりお申し込みくださいね。

お読みいただきありがとうございました!
なお、もしもこの記事が気に入りましたらぜひ「スキ」をお願いいたします!そして何か記事のリクエストがありましたら、コメントにてお気軽にご提案ください!できるだけ調査して記事を書いていければと思います。

参考文献:

カバー写真:Louis Bachrach, Bachrach Studios, restored by Michel Vuijlsteke, Public domain, via Wikimedia Commons

サポートしてくだされば本当に本当にありがたいです!大切に使わせていただきます。